がんと向き合い生きていく

余命6カ月の宣告に頭が真っ白 治療を希望しないことに…

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 そして、午後2時になり、F医師から告げられます。

「膵臓がんが尾部にできていて、胃と腎臓に接しています。手術は無理だと思います。余命はあと6カ月、長くて1年と思ってください」

 突然のことにMさんは頭が真っ白になりました。「あと6カ月」という言葉だけが頭の中を駆け巡り、その後はF医師の説明など何も耳に入らなくなっていました。覚えていたのは、最後に「Gクリニックに紹介状を書いておきます。娘さんには私から電話で説明しておきます」と言われたことくらいです。

 自宅に戻ったMさんは、自分で作ったキュウリ、ナス、トマトのいつものおいしい味がまったくなくなってしまい、ただガリガリとかじっているだけになったことに気づきます。畑仕事も、本を読む気もなくなっていました。

 2日後、娘さんから電話がかかってきました。「お父さん、大丈夫? F先生が電話で手術は無理だし、抗がん剤は人間の尊厳をダメにする。Gクリニックに行って、緩和ケアが一番いいと言っていた。今度、仕事を休める日に行くから、元気出してね」

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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