子作り治療 最前線

がん治療の前に…精子や卵子を凍結保存するのが常道です

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「白血病」「悪性リンパ腫」「脳神経系腫瘍」が半数以上を占める「小児・若年がん」の罹患数は年間5万人を超え、近年増加傾向にある。35歳未満の「若年性乳がん」の発症(乳がん全体の約3%)も少なくない。

 しかし、治療の進歩に伴い、小児・若年がんの生存率は飛躍的に伸び、小児がん患者の80~90%は完治可能となってきている。そこで問題になるのが、がん治療の副作用で生殖機能に障害をもたらす可能性があることだ。患者によっては妊孕(にんよう)性(妊娠のしやすさ)を完全に失うこともある。聖マリアンナ医科大学病院・産婦人科の鈴木直教授が言う。

「がん治療を行うと、一部の抗がん剤や放射線治療の影響で、若い女性でも閉経と同じ状態(早発閉経)になってしまう場合があります。しかし、がん治療は最優先で行われなければいけません。いまは卵子や精子を凍結保存して患者さんの妊孕性を温存できる可能性もあります。将来、子供を望むなら、がん治療開始前に主治医に相談するのがいいでしょう」

 抗がん剤による卵巣機能不全は「化学療法誘発性無月経」と呼ばれ、患者の年齢と抗がん剤の種類によって20~100%の確率で起こるとされる。特に、乳がんや白血病、悪性リンパ腫などで使われる「アルキル化剤」という抗がん剤が、最も卵巣への毒性が強いという。

 放射線治療での卵巣への影響は、成人では放射線量が2.5~6グレイ程度、小児では10~20グレイ程度が永久不妊の閾値(いきち)とされる。

 代表的な治療では、骨髄移植前の全身照射、腹部や骨盤の照射。また、ホルモン調節をつかさどる脳への照射により、生殖ホルモンの分泌低下が生じる場合がある。

「女児ではがん治療後に月経が再開しても、卵巣予備能は回復しないので、妊孕性が低下している可能性があります。本人は、それを知らずに大人になり、結婚して、初めて問題に直面するケースが少なくありません。また、通常の人よりも早く閉経を迎える可能性があるので、妊娠の機会を逃す原因にもなります」

 男性の場合、抗がん剤は精子形成の過程に影響を与え、乏精子症や無精子症などを引き起こし、不妊症の原因になる。

 無精子症になっても、治療後2年以上経つと多くは精子の出現が見られるが、抗がん剤の総投与量が多いと回復しない場合もある。放射線治療も照射線量が多いほど不妊期間が延長するという。

 次回は、卵子や精子を凍結保存する「妊孕性温存療法」を取り上げる。

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