子作り治療 最前線

妊孕性温存療法 女性は患者によって3つの凍結方法がある

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 がん治療を行うと、抗がん剤や放射線の影響で生殖機能に障害をもたらす可能性があり、年齢や治療内容によっては妊孕(にんよう)性(妊娠のしやすさ)を完全に失う場合もある。しかし、小児・若年がんでは、がん治療の前に卵子、受精卵(胚)、精子などを凍結保存する「妊孕性温存療法」を行うことで、妊孕性を温存できる可能性が残されている。

 聖マリアンナ医科大学病院産婦人科の鈴木直教授が説明する。

「あくまでがん治療が最優先となり、この療法の提供はがん治療が遅延なく行われることが原則です。そして、がん治療を担当する医師によって妊孕性温存が可能であると判断された場合にのみ実施されます」

 凍結保存の方法は、女性の場合「卵子凍結」「受精卵凍結」「卵巣組織凍結」があり、患者の年齢や婚姻状況、がん種などによって選択される。

 卵子凍結は、採取した卵子を凍結保存し、がん治療が終わった後(または結婚して子供をつくるとき)に体外受精させ、子宮に戻す。受精卵凍結は、体外受精させた受精卵を凍結保存し、がん治療後に子宮に戻す。

 一般的には卵子凍結は未婚女性、受精卵凍結は既婚女性に実施される。妊娠率の報告では、受精卵凍結が約40%に対して卵子凍結は10%前後。これは卵子の場合、凍結のダメージが影響しているといわれている。ただし、この2つの凍結保存は排卵を待たなければいけないという欠点がある。

「一方、卵巣組織凍結は2、3日ででき、月経発来前(思春期前)やがん治療までに時間的猶予がない場合に有効です。やり方は、腹腔鏡手術で片側の卵巣を摘出し、その組織片を凍結保存します。そして、がん治療後に溶かして、もう片側の卵巣に移植する。すると卵巣の機能が回復して排卵が起こるようになり、自然妊娠や人工授精ができるようになります」

 ただし、進行がんや白血病、卵巣がんの場合は、摘出した卵巣に転移している可能性があるので勧められない。最近の報告では、卵巣組織凍結による卵巣機能の回復は65%前後、妊娠出産率は25%前後とされているという。

 男性の妊孕性温存療法としては「精子凍結」が行われている。女性と違ってマスターベーションで精液を短時間で採取できるので、がん治療を遅らせずに実施することができる。しかし、精子形成が未熟な思春期前の若い男児では精子保存が困難なため、「精子組織凍結」の研究が進められている。

 国内でこれらの妊孕性温存療法を実施できる施設は限られ、日本産婦人科学会のホームページから検索できる。

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