超高齢社会の日本では、心房細動の患者さんが増えているということはこれまで何度かお話ししてきました。現在、日本の心房細動患者は80万人といわれ、2030年には100万人を突破するとみられています。
心房細動は、心臓が細かく不規則に収縮を繰り返し、規則正しい心房の収縮ができなくなる不整脈のひとつです。動悸や息切れといった症状が表れる場合もありますが、症状がまったく出ない人もいて、心房細動だけでは命に関わるような病気ではありません。
しかし、そのまま放置して長期間続くと、深刻な重大病を招く危険があります。まずは、脳梗塞を引き起こすケースです。心臓の収縮が不規則になることで心臓内に血栓ができやすくなるため、それが脳に飛んで詰まってしまうのです。この心原性脳梗塞は、死亡したり重症化する割合が高く、とりわけ注意しなければならないことはこれまでもお話ししてきました。
心房細動が招く危険な病気はそれだけではありません。心不全を合併して、それが死亡の原因になるケースも多いのです。伏見AFレジストリーという心房細動のコホート研究では、心房細動患者における心血管死の最も多い死因は心不全(14・5%)だったと報告されています。
心不全というのは病名ではなく、心臓の機能が低下し、全身に十分な血液を送り出せなくなっている状態を指します。悪化した場合は心臓の末期的な症状といえるでしょう。心房細動を起こすと、心臓のポンプ機能が徐々に徐々に衰えていき、心不全に至るのです。
また、心房細動を起こしやすくする高血圧、糖尿病、心血管疾患などの持病は、心不全のリスク因子と重なっています。そうした原疾患が心房細動を経由して悪化し、心不全を発症するケースが多くみられます。もともと心臓を衰えさせる原疾患を抱えている人が心房細動になると、ならない人よりもさらに心臓全体の働きが落ちてしまうのです。
心房細動があるうえ、心臓弁膜症や狭心症などほかの心臓病がある、糖尿病がある、腎機能が悪いといった人は心不全を起こしやすいので、原疾患をしっかりコントロールすることが心不全の予防になります。
心房細動から房室ブロックになるケースもあります。心房から心室への興奮伝導が途絶する状態で、脈拍が遅くなって突然死する場合もあります。自覚症状がそれほどでなくても、心房細動を放置しないようにしましょう。心房細動は早期に発見すれば「カテーテルアブレーション」という治療ができます。太ももや肘からカテーテルを挿入し、不整脈の原因となっている部分に高周波の電気を流して焼き切る治療で、完治も望めます。
■親が心房細動の場合は発症リスクが上がる
最近の研究で、心房細動の発症には遺伝的要因が大きく関わっていることもわかっています。両親が心房細動の人はそうでない場合の3.23倍、片親が心房細動の人はそうでない場合の1.85倍も心房細動にかかりやすいと報告されているのです。
そもそも心臓疾患の多くは遺伝が大きく関係しています。心臓疾患のリスク因子である高血圧や高コレステロールといった体質が子供にも引き継がれるうえ、同じような生活習慣である場合が多いため、心臓疾患にかかりやすくなるのです。若い頃は問題なくても、数十年たってからそうした体質が表面化して心臓疾患を招くケースもあります。
心房細動も同様で、心房細動だけが遺伝している場合もありますし、甲状腺疾患のように心房細動を起こしやすくなる原疾患が遺伝して、心房細動にかかりやすくなる場合もあります。
いずれにせよ、親が心房細動であれば自分も発症リスクが高いと知っておくことが大切です。そうした自覚があれば、心房細動を起こさないために生活習慣を改善したり、原疾患をしっかり管理する意識が生まれるのです。
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