Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

がん研センターが公表 「拠点病院」生存率データの読み方

早期なら手術中心
早期なら手術中心(C)日刊ゲンダイ

 がん治療の成果は、5年生存率がひとつの目安になります。国立がん研究センターが今月11日に公表したのは3年生存率です。これまで5年や10年の生存率は発表されていますが、3年は初めて。2011年に全国のがん診療連携拠点病院でがんと診断された人の3年後の生存率で、全体は71.3%でした。

 生存率の調査には、調べたい年数に応じた時間がかかるため、結果が出るころには状況が変わっている可能性があります。その点、「3年」なら、タイムラグが短く、治療の最新事情が反映される可能性が高いのです。

 ところで、今回の発表でそれ以上に注目は、がん拠点病院のデータです。胃と大腸、肝臓、肺、乳房の5つのがんについて、ステージごとの患者数とともに5年生存率が公表されたのが特徴。その見方によっては病院ごとの実力評価になりうるでしょう。

 まず押さえておきたいのは、生存率の低い施設が、必ずしも治療レベルが低いわけではないということ。その上で、施設データの読み解き方を紹介します。

 たとえば、都内の拠点病院でがん患者の登録数が多いツートップは、がん研有明病院と国立がん研究センター中央病院です。日本を代表するがん専門病院といっても過言ではありませんが、データには微妙に差があります。それぞれのがんの全体の生存率は、乳房以外の4つは、すべて国立がん研究センターの方が長い。その大きな根拠が登録された患者のステージの違いでしょう。

 たとえば、国立がん研究センターの大腸がんデータを見てみると、1期は対象数248人で死亡数23人。生存率は90.5%でした。以下2期は195人、25人で86.6%、3期は198人、27人で85.7%と8割をキープしますが、4期は128人、83人で27.9%に下がります。全体では、796人、159人で、79.1%です。

 がん研有明病院の大腸がんは、全体で国立がん研究センターを0.3ポイント下回りますが、病期ごとの数値は一変します。1期は260人、20人で92.3%。2期は193人、24人で87.4%、3期は271人、37人で86.2%で、4期は166人、115人で30.3%。病期ごとのチェックでは、国立がん研究センターよりすぐれているのです。それでも全体のデータがわずかに下回ったのは、4期の死亡数の多さでしょう。

 施設ごとのデータ比較は、まず同じがんの同じ病期をチェックすること。全体の生存率を見る場合は、病期ごとの患者構成のチェックが欠かせません。

 都立駒込病院は、公表資料のコメント欄に「合併症を多く持った患者さんや、比較的進行した患者さん……」と書かれているように、冒頭の2施設より進行がんの患者数が多い。それでも、乳がんの4期は、がん研を上回る37.2%(国立がん研究センターの乳がん4期はデータなし)。進行がんの治療成績のよさが分かります。

 数字をチェックする場合のポイントは、近いエリアの施設を見ること。青森と東京では人口構成が違うように、患者構成が大きく異なります。それでは意味がない。近いエリアの同じ病期。それなら拠点病院の実力を判断する材料になりえます。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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