人の目では不可能 AIによる内視鏡で大腸がんを確実に発見

本システムを実際の内視鏡検査環境で用いた臨床試験の様子
本システムを実際の内視鏡検査環境で用いた臨床試験の様子(慈恵会医大付属病院内視鏡室=炭山教授提供)

 大腸がんは年々、罹患率や死亡数が増加している。しかし、将来がんになり得るポリープを見つけ、切除することで死亡率低下につながる。それに役立つ画期的な検査支援システムが開発され、注目を集めている。

 国立研究開発法人日本医療研究開発機構の支援を受け開発したのは、東京慈恵会医大内視鏡科・炭山和毅教授。5月の「日本消化器内視鏡学会」、6月の「米国消化器病週間」で発表した。

 大腸がんの検査法である大腸内視鏡は、CCDカメラを装着した細い管(スコープ)を肛門から挿入。大腸の内側にあるがんやポリープ、出血、炎症などを見つけることができる。

 しかし、ポリープは見つけやすい場所に、見つけやすい形状であるとは限らない。

「大腸には無数のひだがありますが、ひだの裏側のポリープはカメラで見つけにくい。早期の小さな病変も見つけにくい。また、ポリープには悪性かどうか判断がつきにくいものもあります」(炭山教授=以下同)

 しかも、大腸内視鏡検査では、静止画像をじっくりと観察するのではなく、動画の中から病変を見つけ出していかなくてはならない。医師の経験値、手技の差もある。

「つまり大腸内視鏡検査では、どんなに優れた医師でも見落としをゼロにすることは困難。そのためにも、定期的に大腸内視鏡検査を行っていただくことが重要です」

 しかし、発見率は高いほどいいことは間違いない。世界的医学雑誌ニューイングランドジャーナルに発表された論文によると、大腸内視鏡検査を行う医師の腫瘍性ポリープ発見率が1%上昇すると、将来の大腸がんが3%減少するという。

「そこで約2年前から、従来使用されているさまざまな内視鏡システムに対応が可能な人工知能技術(AI)による大腸内視鏡検査支援システムの開発に取り組んできたのです」

■検出感度98%、陽性的中率91・2%

 同大付属病院で収集した約5万枚の大腸ポリープ画像から作成した教師用データを基に、AIがポリープを自動検出。検出されたポリープはボックスで囲まれ、音も鳴ることで、リアルタイムで医師に通達される。

 この時、腫瘍性ポリープ(がん、もしくは将来がんになり得る)かどうか、予想される組織診断と確信度が表示される。「non―neoplastic99%」と表示されれば、「腫瘍ではない。確信度は99%」というようにだ。医師は画像のポリープと、予想される組織診断・確信度から、最終的な診断をする。

「存在しているポリープのうち、AIが正しく検出できた確率である検出感度は98%。AIがポリープとして検出したもののうち、正しくポリープであった陽性的中率は91.2%。内視鏡医であっても発見が容易でないポリープに限っても、検出感度93.7%、陽性的中率は96.7%と高検出率でした」

 すでに臨床の現場でAIを使った大腸内視鏡検査を行っている。来年以降は、国立がん研究センターなどと共同で、AIを用いた場合と用いない場合とでは検出率に差があるのかなどを研究していく予定だという。

「さまざまな条件によって生じてしまう見落としが、今後は減少するだろうと期待しています」

 課題もある。たとえば、AIが検知した情報を全て伝えれば情報過多にもなりかねない、適切に医師にフィードバックするにはどうすればいいか?「医師とともにあるAI」で大腸がん死亡率の低下を目指す、と炭山医師は言う。

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