糖尿病でも脳卒中・心筋梗塞のリスク減らす5つのポイント

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 脳梗塞や心筋梗塞などで亡くなる人が増える季節がやってきた。2016年人口動態調査によると、10月の総死亡者数は10万9498人。がんの3万2115人に次いで多いのが循環器疾患(2万7183人)で、なかでも目立つのが脳梗塞(5248人)、急性心筋梗塞(2719人)、脳内出血(2668人)だ。これらの病気は糖尿病との関わりが深く、「日本人の脳梗塞の半分、心筋梗塞の3分の1は糖尿病」ともいわれる。どう対策を取ったらいいのか? 糖尿病専門医で「AGE牧田クリニック」(東京・銀座)の牧田善二院長に聞いた。

■何もしない55歳未満の心筋梗塞リスクは?

 2型糖尿病の人はそうでない人と比べて冠動脈疾患、脳血管障害など動脈硬化性疾患や死亡のリスクが2~4倍高いことが知られている。

 しかし、最新の研究によれば5つのリスク因子を治療し目標以下にコントロールすれば、脳卒中や心筋梗塞などのリスクは上昇せず、一般の人のリスクと変わりないという。

 それどころか、リスクが低くなるケースもあるというから驚きだ。

「スウェーデンの研究者が世界的権威のある医学雑誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』8月16日号に発表した研究結果です。同国の全国糖尿病登録調査に2014年までの12年間に登録された2型糖尿病患者27万1174人と非糖尿病の地域住民135万5870人を比較したところ、5つの因子を適切に治療していれば、対照群に比べて急性心筋梗塞のリスクは16%低く、脳卒中のリスクは5%低下と有意差がなかったというのです」

 2つの集団の平均年齢はおおよそ60歳、追跡期間の中央値は5・7年だった。

 研究で示された5つの危険因子と目標値は次の通り。

①高血糖(目標:HbA1c7%未満)
②高血圧(同:上の血圧140㎜Hg未満、下の血圧80㎜Hg未満)
③尿中アルブミン排泄量
④喫煙習慣(同:禁煙)
⑤高LDLコレステロール(同:97㎎/デシリットル未満)

 いずれも、検査値が高いほど糖尿病の合併症を発症しやすいことがわかっている。

「研究で興味深いのは治療の恩恵は年齢を重ねれば重ねるほど大きかったことです。55歳未満、55歳以上65歳未満、65歳以上80歳未満、80歳以上と年齢別に分析したところ、糖尿病が関連する心血管イベントなどのリスク減少幅は80歳以上の集団が最も大きかったのです」

 とくに5つの目標値をすべてクリアしている80歳以上の患者の急性心筋梗塞のリスクは糖尿病のない人たちに比べて38%も低下していたという。一方で、5つの危険因子をすべて放置したままの55歳未満の患者では、心筋梗塞は7.7倍、脳卒中は6.2倍、心不全は11.4倍、死亡が5倍と、リスクが大幅に上昇していた。むろん、この結果がすべて正しく、日本人にあてはまるとは言えないが気になる。

 5つのリスク因子を下げるには、どのような治療が好ましいのか? 

■高血圧の飲み薬で尿中アルブミンも下げる 

「尿中アルブミンの基準値18㎎/gを超えると腎症とみなされ、その値が300を超えると数年以内で人工透析が必要となるといわれます。私の医院では18を超えた時点で尿中アルブミンにも効果があるテルミサルタンやアゼルニジピンなど数種類の高血圧の薬を使います」

■血糖値は週イチ注射でコントロール  

「従来の飲み薬では思うように血糖値が下がらない場合は注射製剤を検討します。注射製剤にはインスリンそのものを補充するインスリン製剤、体からインスリンを出しやすくするGLP―1受容体作動薬、の2種類がありますが、私は先に週1回打つだけでいい、GLP―1受容体作動薬の注射タイプを勧めます」

 血糖値が上がると、インスリンを分泌させる薬で人によってはHbA1cが2%近く下がるうえ、体重も2キロ近く減るという。使い始めてもやめられないものでもないのも魅力だ。

■悪玉コレステロールは皮下注射で減らす

「日本では、LDL―C(いわゆる悪玉コレステロール)を下げるためにスタチンという飲み薬が使われています。しかし、それだけでは下がりにくい場合は、一昨年発売された高コレステロール血症治療薬アリロクマブ(商品名プラルエント)を試すのも手です。費用はかかりますが、4週間に1度、在宅自己注射薬なので面倒がなく、飲み忘れの心配もありません」

 この薬は、LDL受容体分解促進タンパク質であるPCSK9(プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)とLDL受容体の結合を阻害することで、LDL―Cの除去に利用できる受容体数を増やし、その結果、LDL―C値を低下させる。

 同じ系統の注射薬は他にあるが、注射の針先が見えないぶん、恐怖心も少ないという。

「糖尿病の患者さんで脳梗塞や心筋梗塞で入院されたと聞くと、もったいないと感じます。これらの病気は生活習慣の改善や適切な治療で多くが予防されると考えられるからです。努力すれば元気で長生きは可能なのです」

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