命に関わるような脳梗塞や心不全の発症リスクをアップさせる「心房細動」は、早期に発見して適切なタイミングで治療を始めることが重要です。しかし、心房細動はこれといった自覚症状がない場合も多く、きちんと診断されないまま放置されているケースも少なくありません。
そんな心房細動を適切に診断するために期待されているのが「遠隔モニタリング診断」です。最近、米国で報告された研究では、自己装着型のウエアラブル心電図パッチを使った遠隔モニタリング診断は、心房細動の診断率をアップさせ、抗凝固薬による治療を開始した患者の割合も高くなることがわかりました。
日本でも、ペースメーカーなどの植え込み型治療器具で検知した心電図情報を電波で自動的にサーバーへ送って集約し、解析結果が各病院に配信される遠隔モニタリングのシステムを導入している施設があります。
数年前に保険適用になった植え込み型や、最近改良されたループレコーダーによる不整脈の遠隔診断も増えてきています。小型の機器を2週間くらい装着して生活し、心臓の拍動を継続して監視するシステムです。症状が表れた時に脈拍に異常がなかったかを調べることができますし、就寝中など自覚症状がない時でも脈拍の動きがわかります。患者には不整脈の症状を感じたタイミングでノートに記録してもらい、言動が一致している状態なのかどうかも判断できます。
これで心房細動を含む不整脈だと診断された場合、まずは経過観察となり、発作がひどく自覚症状も強くなってきたらカテーテルアブレーションや投薬治療などが検討されます。
ある程度の期間にわたって機械がモニタリングするので、患者本人の自覚症状や訴えよりも正確な状態がわかります。自分では「これくらい大したことないだろう」と思っていても、実は深刻な状況だったといったケースもカバーできます。心臓の状態を正確に把握できるため、適切なタイミングでエビデンスにのっとった的確な治療ができるようになるのです。
不整脈で悩んでいる人は、遠隔モニタリング診療を行っている専門科に相談してみてください。
■本格的な範囲拡大は難しい
不整脈に限らず、遠隔診療はどんどん身近なものになってきています。たとえば、テレビ電話などを介して病院から出してもらった処方箋を自宅で印刷し、それを近くの薬局に持参して薬を受け取るといったシステムです。新薬を処方する場合や、有害事象が報告されているような薬では少し不安がありますが、医療者側がしっかり薬の説明をできれば患者さんにとっても有益です。
とりわけ、ずっと同じ薬だけを飲んでいる慢性疾患の患者さんは薬を処方してもらうためだけに病院まで足を運ぶ必要がなくなるので、“待ち時間”にイライラすることがなくなります。遠方の病院まで通うことがつらいという高齢者も自宅で管理できます。
病院側にとっても、待ち時間対策だけでなく、人手を減らすことができるといったプラスがあります。順天堂医院でも、専用サーバーで遠隔で投薬を行っています。
ただ、遠隔診療がこのまま本格的な診察や治療まで範囲を拡大するのは難しいでしょう。最近はテレビ電話やスマホを介して医師と対面し、症状を伝えるなどして診断を行っているケースもありますが、これはあくまでも型にはまった決まりきった対処しかできません。遠隔やロボットといったシステムは、治療を前向きに進めていくような場合は良いのですが、想定外のトラブルが起こっていったん立ち止まったり、振り返って対応するといった作業は得意ではないため、治療には患者さんと医師の“接触”は欠かせないのです。
さらに、いまはAI(人工知能)を利用した診察や治療の研究・開発が急速に進んでいます。より新しく使い勝手がいいシステムが実現すれば、そちらに流れるのは当然で、今後は遠隔診療の拡大よりも、AIによる医療がさらに進化していくのは間違いないでしょう。
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