患者が語る 糖尿病と一生付き合う法

長い会議の低血糖から救ったのは持参していたゼリー飲料

平山瑞穂氏
平山瑞穂氏(C)日刊ゲンダイ

 僕がいま住んでいるところはマンションで、管理組合の理事の役が輪番制で回ってくる。

 初回は妻に任せてしまったので、2巡目は僕が請け負わざるを得なかったのだが、最初から気掛かりなことがあった。

 経験からいって、僕はどうも「慣れないこと」をすると、自覚している以上にエネルギーを消耗する体質らしい。もし理事会や総会の間に低血糖を起こしたら? 議事進行中にしどろもどろなことを言い始めたら目も当てられない。せめて理事長の任だけは避けたかった。

 ところがまずいことに、招集をかけられた理事4人のうち男性は僕だけで、しかもほかの3人はみな控えめなタイプだった。

 これではほぼ間違いなく自動的に自分が理事長にさせられると思い、僕は先手を打った。

 病気のことを明かした上で、その代わり、仕事柄終日在宅していることが多く、雑用などはいくらでも引き受けるので、理事長の役目だけは免除してほしい、と率直に申し出たのだ。

■管理組合の理事長になり…

 しかし、だからといって「じゃあ私が」とだれかが手を挙げてくれるほど、世の中は甘くない。

 同席していた管理会社の担当が、話を早く先に進めたいばかりに、「議事進行などは私が代行しますから」と説得にかかり始め、結局、僕は理事長の任を拝領せざるを得なくなってしまった。

 しかも悪いことは重なるもので、僕の任期中にたまたま、敷地内で電力会社が工事ミスによる火災を起こした。幸い住民に人的被害は出なかったものの、管理組合は事後処理に追われた。

 電力会社の担当者も同席する緊急理事会が何度も招集され、話が紛糾して長丁場になることもあった。ある時、まさにそのさなかに、意識が急激に散漫になっていくことに気づいた。

 放置していたら倒れてしまう。僕は仕方なく、万が一のために持参していたゼリー飲料を、その場で口に含んで急場をしのいだ。

 事情を知らない電力会社の人の目には、さぞ異様な行動に見えたことだろう。

平山瑞穂

平山瑞穂

1968年、東京生まれ。立教大学社会学部卒業。2004年「ラス・マンチャス通信」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞。糖尿病体験に基づく小説では「シュガーな俺」(06年)がある。

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