患者に聞け

脊柱管狭窄症<4>2泊3日の手術から6日目…「成功です」と

小俣一平氏
小俣一平氏(提供写真)

 千葉県香取市にある「国保小見川総合病院」での手術は午後1時半から始まった。私の脊柱管狭窄症は、第4腰椎と第5腰椎の間の椎間板にヘルニアが起きていて、下肢にいく太い神経を圧迫しており、歩くだけで激痛が走る。

 そこで患部に8ミリの穴を開けて、そこから7ミリの内視鏡を使ってヘルニアを切除して神経に触れないようにする手術だ。2階にある手術室の扉の奥に大きな手術台がデーンと鎮座していて、その台座にうつぶせになる。すべてが初めてなので興奮と緊張感とが妙に入り交じって、汗が噴き出る。麻酔の先生が「これから麻酔を入れます。背中のここは冷たいですか」「ハイ、上の方が冷たいです」と生殺与奪を預けてある弱みからかバカ丁寧に答える。

 そのあとストーンと大きな穴の中に落ちていったような気がして、「小俣さん、小俣さん」の声で我に返る。さっきうつぶせだった体が、天井の方を向いている。あれ? 1番助手の先生が、「体内の酸素が少ないのと、脈拍数が多いし、大量の汗をかいているので、安全を期していったん中止しました」と説明してくれた。「このまま中止か?」と不安になる。

 そこを見越してか、「現況を再チェックして、休憩を入れて再度やるからと清水先生に言われています」と優しく語りかけてくれる。ホッとしたのか爆睡した。「いいですか? ベッドに移しますからね」。看護婦さんの柔らかい声が聞こえて、シートを持ち上げたような、ふわぁっとした感じを残したまま、またぐっすり眠り込んだようだ。

 麻酔が切れると次第に傷口が痛くなる。午後9時、傷口にさした管から微量に出る血液をためる袋(ドレーン)以外は全て取り外された。

■いまは5階まで階段でOK

 翌日、清水先生は午前11時に病室にやって来た。「痛みはどうですか」「脊柱管狭窄症で痛かったところは、全く痛くありません」「いえいえ、安心してはいけません。家に帰ってから痛い、痛いと電話してくる患者さんもいますから」

 ニヤリと笑う。2泊3日の手術から6日目。背中に刺さった管を清水先生が抜いてくれる。MRIを見ながら「神経に当たっていたヒダは奇麗に取り除きました。こうなっていれば大丈夫、成功ですよ」。いつもの笑顔で語りかける。

 いま私は5階に事務所を構えている。エレベーターもエスカレーターもない。ひたすら階段を上る。無理はしないが、66歳の年相応にせっせと歩き、動き回っている。あの痛みの日々は何だったのか。まるで他人事のように思う毎日である。

▽小俣一平(おまた・いっぺい) 1952年生まれ。武蔵野大学客員教授、元NHK社会部記者。「新聞・テレビは信頼を取り戻せるか」などの著書がある。

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