Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

ノーベル賞で注目オプジーボ “ターゲット”は進行肺がんか

本庶佑・京大特別教授
本庶佑・京大特別教授(C)共同通信社

 がん治療をめぐって、明るいニュースが飛び込んできました。ノーベル医学生理学賞を受賞した京大の本庶佑特別教授(写真)の研究は、オプジーボなど新しいタイプのがん治療薬の開発につながったものです。オプジーボが登場した4年前、年間3500万円に上る高額な薬剤費が話題になり、名前を覚えている方は少なくないでしょう。

 本庶さんの研究のすごさは、免疫の仕組みを正常化させるところにあります。免疫細胞は、細菌やウイルスなどの侵入者のほか、体内で生まれたがん細胞も異物として排除しますが、その働きが強過ぎると、アレルギーやリウマチといった自己免疫疾患になりやすい。その欠点をカバーするのが、自ら免疫を抑制する仕組みで、「免疫チェックポイント機構」と呼ばれます。

 実は、がん細胞は、免疫チェックポイント機構に働きかけて、免疫細胞の攻撃にブレーキをかける仕組みがあるのです。そこで登場するオプジーボは、かけられたブレーキを解除。免疫細胞によるがん細胞への攻撃を再開するのです。その働きから、オプジーボに代表される薬は、免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれます。

■全身の転移が消えて3年生存も

 当初、皮膚がんの一種、悪性黒色腫で適応され、その後、いろいろながんに拡大されています。しかし、その多くに「切除不能な」「再発」「化学療法後に増悪した」といった限定する条件がつけられているのも事実。がんの種類としては、皮膚がん、肺がん、腎がん、頭頚部がんなど幅広く使えるものの、現状は進行がんの人に限られています。

 それぞれのがんで適応かどうかは、遺伝子検査で見分けますが、オプジーボの適応の方にきちんと投与すると、その効果はこれまでの抗がん剤を上回るものがあります。その点で注目しているのが、「切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」の方への投与です。

 非小細胞肺がんは、肺がんのうち85%を占め、最近は脳転移との関係でも注目されています。がん患者のうち10人に1人は脳転移になりますが、50%は肺がん由来。つまり、オプジーボに代表される免疫チェックポイント阻害薬が効果を発揮すると、脳の機能を守ることができる可能性があるのです。

 特に認知機能がキープできたら、治療と生活を両立する上でも、生活の質を高める上でも重要でしょう。

 非小細胞肺がんの場合、オプジーボで腫瘍が半分に縮小する確率は5人に1人ほどですが、従来の抗がん剤より効き目が長く、全身の転移がんが消えて3年以上元気に暮らしているケースも報告されています。「転移↓余命告知」は、過去のものになる可能性を秘めているのです。

 免疫チェックポイント阻害剤の開発はどんどん進んでいます。今後の課題は、効き目がある人の掘り起こしと国民皆保険制度に直結する超高額な医療費の問題でしょう。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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