がんと向き合い生きていく

大きな病院から捨てられた…そんな思いを抱く患者もいる

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 この話を聞いた私は、Aさん(58歳・男性)のことを思い出しました。

 Aさんは大きなF病院で胃がんの手術を受け、その後、外来で定期的に抗がん剤の点滴と内服治療となり、1年間がんばってきました。

 しかし、がん性腹膜炎が悪化して、たまった腹水を抜くようになり、食事もあまり取れなくなって個室に入院しました。

 点滴などの治療を行いましたが、病状はなかなか回復しません。そして入院してから2週間が過ぎた頃、担当医から「この分では在宅で過ごすのは無理そうなので、B病院に移ったらどうですか?」と言われたのです。

 Aさんはがんに対しての積極的治療はもう無理であることを受け入れ、転院することにしました。そしてF病院を出る時、外来で知り合ったある患者から「もっと料金の高い個室に入っている患者は、病院を移れとは言われないそうだ」と聞かされたそうです。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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