患者が語る 糖尿病と一生付き合う法

せんべい40枚をおやつに一気食い…男性患者の暴挙に愕然

平山瑞穂氏
平山瑞穂氏(C)日刊ゲンダイ

 かかりつけのクリニックで僕が提出している栄養指導向けの食事記録が、ほぼすべて捏造(ねつぞう)であると前に書いた。

 つい最近も僕は、いつも通りの満点に近い評価を頂いたところなのだが、管理栄養士さんによるそうした指導は、待合室で行われている。だから、他の患者が何を言われているかが耳に入ってきてしまうこともある。

 ある時、栄養士さんが僕の背後に座っていた男性患者に声をかけた。

「おやつにおせんべいを1袋召し上がったとのことですけど、これはどれくらいの大きさの?」

 漏れ聞こえてくる男性の低い声と栄養士さんの受け答えを総合すると、彼はどうやら、直径4センチほどの小ぶりなせんべいが詰めこまれた「袋」を、丸ごと平らげてしまったようだ。

「あの……、1袋って、そのおせんべいが何枚くらい入ってたんでしょうか?」と栄養士さんが恐る恐る尋ねると、彼は答えた。

「えーと、40枚くらいかな」

 背後で栄養士さんがしばし絶句している気配が伝わってきた。僕も絶句していた。おやつにせんべいを40枚? 何かの間違いではないのか。

 せんべいといえば、材料は米、すなわち糖質の塊である。それが40枚となると、少なく見積もっても800キロカロリーは下るまい。1食分を超えるほどの量だ。いやしくも糖尿病の患者が、そんな不摂生を平気で行っていること自体がそもそも僕には信じ難いのだが、もっと驚かされるのは、彼がそれを悪びれることもなく、ありのまま栄養士さんに報告している点だ。

 それが栄養指導の観点から見てどれだけおきて破りの暴挙なのかという認識が、ハナから欠落しているのだろう。仮に食べたいという欲望に押し流されてしまったとしても、僕なら恐ろしくてとても報告などできない。

 指示カロリーなどどこ吹く風、と言わんばかりのそうした患者たちの面倒も見なければならない栄養士さんの、知られざる苦労がしのばれる一幕だった。

平山瑞穂

平山瑞穂

1968年、東京生まれ。立教大学社会学部卒業。2004年「ラス・マンチャス通信」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞。糖尿病体験に基づく小説では「シュガーな俺」(06年)がある。

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