患者が語る 糖尿病と一生付き合う法

せんべい40枚をおやつに一気食い…男性患者の暴挙に愕然

平山瑞穂氏(C)日刊ゲンダイ

「えーと、40枚くらいかな」

 背後で栄養士さんがしばし絶句している気配が伝わってきた。僕も絶句していた。おやつにせんべいを40枚? 何かの間違いではないのか。

 せんべいといえば、材料は米、すなわち糖質の塊である。それが40枚となると、少なく見積もっても800キロカロリーは下るまい。1食分を超えるほどの量だ。いやしくも糖尿病の患者が、そんな不摂生を平気で行っていること自体がそもそも僕には信じ難いのだが、もっと驚かされるのは、彼がそれを悪びれることもなく、ありのまま栄養士さんに報告している点だ。

 それが栄養指導の観点から見てどれだけおきて破りの暴挙なのかという認識が、ハナから欠落しているのだろう。仮に食べたいという欲望に押し流されてしまったとしても、僕なら恐ろしくてとても報告などできない。

 指示カロリーなどどこ吹く風、と言わんばかりのそうした患者たちの面倒も見なければならない栄養士さんの、知られざる苦労がしのばれる一幕だった。

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平山瑞穂

平山瑞穂

1968年、東京生まれ。立教大学社会学部卒業。2004年「ラス・マンチャス通信」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞。糖尿病体験に基づく小説では「シュガーな俺」(06年)がある。

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