Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

輪島さんは手術で声失う…咽頭がんの早期発見は胃カメラで

元横綱の輪島大士さん
元横綱の輪島大士さん(C)共同通信社

 病魔を寄り切ることはできませんでした。大横綱・輪島大士さんの命を奪ったのは咽頭がんで、死因はがんによる衰弱だったそうです。享年70。この間の報道で、盟友北の湖さんとのエピソードについて、こんなことが書かれていました。

「ちょっとくらい土俵外で盛り上げたら面白いだろうとしゃべったら、大変なことになった。でも、それが相撲人気につながった」

 サービス精神旺盛な性格がうかがえます。手術による後遺症で発声ができず、筆談を余儀なくされたことは、ショックだったでしょう。

 2018年の咽頭がんの死亡数予測は、口腔がんと合わせて7900人。7万人超の肺がんや5万人を超える大腸がんなどと比べるとまれですが、病状によっては生活の質が大きく損なわれます。予防が大切です。

 咽頭は、鼻の奥から食道の入り口までで、上から順に「上」「中」「下」に分かれます。この部分はたばことお酒の影響を受けやすく、重なるとリスクは相乗的に増えるのです。

 たとえば、たばこを吸う男性は、吸わない人に比べて咽頭がんの罹患リスクが2.4倍。1日の喫煙箱数と年数をかけて算出する累積喫煙指数が60以上だと、4.3倍です。部位別では、下咽頭への影響が強く、喫煙グループで13倍、累積喫煙指数60以上で21倍と報告されています。

 飲酒については、週1回以上飲む人は、飲まない人に比べて咽頭がんの罹患リスクが1.8倍。アルコール換算で週に300グラム、1日平均日本酒4合以上だと、3.2倍です。適量飲酒のリスクはそれほどでなくても、常用するリスクは高い。飲酒も下咽頭への影響が強く、週1回の飲酒で3.3倍、週300グラム以上のアルコール摂取で10倍超にアップします。

 下咽頭がんになると、25~30%の確率で食道がんも発生。これは転移ではなく、別のがんです。どちらも飲酒と喫煙の影響を受けやすいがんであることがその要因と考えられます。特に危ないのは、もともとお酒が弱かったのに、飲むにつれて飲めるようになった人。赤ら顔になりやすいタイプに重複しやすいことが分かってきたのです。

 もうひとつ、見逃せないのがセックスの影響でしょう。頻繁にオーラルセックスを行うと、HPVというウイルスが咽頭に感染し、がん化する恐れがあるのです。特に中咽頭がんのうち半分は、HPV感染が原因とみられています。

 喉頭がんは早くから声がかれやすいのですが、咽頭がんは進行しないと症状が出ません。声がかれるのは進行時で、ほかに嚥下時の異物感や耳の痛みが表れます。耳の痛みは中耳炎にでもなったかと思うような強さですから見逃さないでしょうが……。

 では、早期発見のカギは何かというと、胃カメラです。適量飲酒や禁煙に努めるのはもちろんですが、検診などで定期的に胃カメラを受けている人は事前に「咽頭も診てほしい」と伝えること。それが肝心です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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