がんと向き合い生きていく

分子標的薬の登場が慢性骨髄性白血病の治療を劇的に変えた

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 しかし、K君に本当の病名のことを知られまいとして、私の仕事を話す勇気さえありませんでした。K君に会えたのはその時が最後で、翌年、彼は勤務先の病院で亡くなりました。

 その後、10年ほど経って、骨髄移植は慢性骨髄性白血病の標準的治療法になったのでした。

■骨髄移植から分子標的薬へ

 慢性骨髄性白血病は、造血幹細胞に異常(染色体の9番と22番の一部が入れ替わることによりフィラデルフィア染色体が生じる)が起こり、がん化した白血球が無制限に増殖する病気です。初期の段階ではほとんど症状がなく、多くは健康診断などで白血球数の増加を指摘されて見つかります。白血球数が増加すると、脾臓が腫大してきて腹部膨満感を感じることもあります。

 K君が治療していた時代は抗がん剤で白血球数の増加を抑えるだけの治療で、白血球数が5万以下にコントロールするのをよしとしていました。しかし、3年ほど経つと多くの患者は慢性期から急性転化して、治療に抵抗して亡くなりました。その後、骨髄移植が普及し、1985年ごろから2000年ごろまでの約15年は、治癒を目指す標準治療となったのです。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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