がんとは何か

がん細胞がヒトの免疫監視システムをすり抜ける仕組み

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写真はイメージ(C)PIXTA

 ヒトにはがん免疫監視機構があるにもかかわらず、日本人の半分はがんになる。

 この仕組みが完全ではないからだけではない。がん細胞が自ら、監視システムをすり抜ける術を身に付けるからだ。

 国際医療福祉大学病院内科学の一石英一郎教授が言う。

「がん細胞ががんと認識されるほど大きな塊になるのは、がん細胞の免疫逃避の結果です。例えば樹状細胞には、周囲の免疫細胞に“がん細胞がいるゾ”と通報する働きがあります。樹状細胞ががん細胞を貪食すると、がん細胞内のタンパク質をペプチドに分解し、樹状細胞の表面にあるヒト白血球抗原(HLA)と呼ばれる分子を介して抗原提示します。HLAは台座のようなもので、樹状細胞はそこにがん抗原を載せるのです。免疫細胞であるT細胞はこれを認識し活性化します。がん細胞自身もHLAに自身のがん抗原を載せているため、活性化したT細胞ががん細胞を認識・攻撃することになります。しかし、がん細胞の中には、このHLA分子の発現を低下・喪失させることで免疫から逃れるものがあるのです」

 がん細胞は目印となるがん抗原さえも変化させていく。その仕組みのひとつがスプライシングバリアントだ。

 細胞内ではDNAをメッセンジャーRNA(mRNA)が転写する。それをリボソームと呼ばれる工場で読み取ることで、皮膚や骨、毛髪や酵素などの原材料となるさまざまなタンパク質を作っている。

「転写直後の前駆体mRNAは、タンパク質の情報が含まれているエクソン(翻訳配列)と含まれていないイントロン(非翻訳配列)が交互に並んだ構造をしています。一人前のmRNAになるには、イントロンを切り落としてエクソンのみになる必要があります。これをスプライシングと言います。この時、何らかの理由でがん細胞の抗原に関わるエクソンが切り落とされたらどうでしょう? そのがん細胞はがん抗原を持たず、がん免疫監視機構から逃れることになります」

 こうしてがん免疫監視機構から逃れたがん細胞は生き延び、増殖を続けた結果、がんになるというわけだ。

 さらに、がん細胞はその周囲に、がん微小環境と呼ばれる“城壁”を築き、免疫から逃れようとする。

 その環境下で作用しているのが、がん細胞が免疫を抑制する仕組みである免疫抑制で、その代表が免疫チェックポイントなのだ。

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