意外に知らないホルモンの実力

成長ホルモン補充療法は専門医による治療以外は危険

成長ホルモンのピークは思春期後期(写真はイメージ)
成長ホルモンのピークは思春期後期(写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ

 子供の身長を伸ばしたり、筋肉の成長を促す働きをしたりするのが「成長ホルモン」だ。脳の「下垂体」から分泌される。眠っているときや強度の高い運動で分泌が高まるので、「寝る子は育つ」や「運動すると背が伸びる」の俗説はまんざら嘘ではないようだ。

 成長ホルモンは、大人になっても全身の臓器の代謝を促進する大切な役割を担っている。東京都立多摩総合医療センター内分泌代謝内科の辻野元祥部長が言う。

「骨の伸長が止まっても、骨の健康維持、筋力の維持、新陳代謝の促進、血糖を上げる、などの働きをしています。ただし、分泌量のピークは思春期後期で、20歳以降は徐々に低下していき、60歳では思春期の20%程度に低下します」

 骨の伸長で重要になるのが、成長ホルモンが肝臓に作用して分泌される「IGF―I(インスリン様成長因子Ⅰ)」という別のホルモン。このホルモンが小児期の骨の骨端軟骨板(伸びしろ)に作用し、骨が長軸方向に成長する。それが思春期に伴い骨端軟骨板が消失し始めることで徐々に骨の伸長が止まるのだ。

 ところが何らかの原因(先天的障害や脳腫瘍など)で思春期以前に成長ホルモンの分泌が不足すると、体が大きくならずに停止してしまう「成長ホルモン分泌不全性低身長症(小人症)」になる。逆に、思春期以前に分泌が過剰になると、体が異常に大きくなる「巨人症」になるという。

 では、思春期を過ぎてから成長ホルモンの分泌が過剰になったり、不足したりしたら、どのような変化が表れるのか。分泌過剰は、下垂体に腺腫(良性腫瘍)ができると起こるという。

「思春期以降は『先端巨大症』になります。骨が伸びることはないが、骨端部の骨形成が起こり、軟部組織の増殖・肥大も進む。そのため額や下顎が突出し、鼻や唇が大きくなる特有の顔になります。手や足の指も大きくなる。高血圧や糖尿病も伴いやすくなります」

 また、先端巨大症は、がんになりやすい特徴がある。成長ホルモンによって増えるIGF―Iは細胞の増殖を促すからだ。

 一方、思春期以降に頭蓋内の疾患などで成長ホルモンの分泌が低下すると、疲労感や体力・気力低下、うつ状態などが出現するという。この場合、成長ホルモンを注射で補充する治療法がある。

「成長ホルモンの補充療法は専門医による治療以外で、抗加齢効果や運動能力の向上を期待した間違った使い方は危険です。がんや心血管障害を発症する可能性があるので要注意です」

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