注射は必要なし 経鼻インフルエンザ生ワクチンの基礎知識

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 インフルエンザワクチンというと、「痛い」「腫れる」「怖い」という注射のイメージが強く、嫌がる子供たちも多い。しかし、注射なしのインフルエンザワクチンがあるのをご存じか。欧米で普及している「フルミスト」だ。一時、米国では推奨を取りやめたが、今年から復活。日本でも一部の医療機関で話題になっているという。日本では未承認のワクチンだが、患者の希望に応じて医療機関が個人輸入して使用している。どんなワクチンなのか? 「北品川藤クリニック」(東京・品川)の石原藤樹院長に聞いた。

「フルミストは鼻の中に吹き付けるスプレー式の弱毒性のインフルエンザ生ワクチンです。注射による通常のインフルエンザワクチンは、生後6カ月以上13歳未満では1シーズンに2回の接種が推奨されています。1回目の接種から4週間ほど空けて打つとブースト(免疫増幅)効果が最大になるからです。一方、フルミストは毎年インフルエンザワクチンを利用していない8歳以下は2回接種となりますが、それ以外は一度の噴霧で1シーズンを過ごせるとされています」

 フルミストは2003年に米国で初めて発売され、11年以降、欧州で承認されている。対象は2歳から49歳で、特に2歳から8歳によく効くとされている。

「インフルエンザウイルスは気道の粘膜に感染して増殖、全身に広がる病気です。通常のインフルエンザワクチンは不活化ワクチンと呼ばれるもので、バラバラにしたインフルエンザウイルスの断片を血液中に注射することで、血液中のインフルエンザに対するIgG抗体(免疫物質)をつくります。それでインフルエンザが全身に広がるのを防ぎます。しかし、IgG抗体は気道粘膜には存在しないため、気道への感染そのものを防ぐことはできません。つまり、感染を防ぐというより、重症化を抑えるワクチンなのです。ところが、生ワクチンのフルミストは、弱毒化されているとはいえ生きた病原微生物なので、鼻の粘膜で弱毒化されたウイルスが繁殖します。結果、気道粘膜上にインフルエンザワクチンに対するIgA抗体が、血液中にはIgG抗体がつくられます。つまり、感染そのものを抑えることができるのです」

 通常のインフルエンザワクチンとフルミストの違いはそれだけじゃない。ウイルスが気道粘膜で増殖することにより、細胞性免疫も刺激される。

「細胞性免疫とは特定の病原体を攻撃する免疫細胞を作って攻撃する仕組みのことです。具体的には生ワクチンにより体内で特定の免疫細胞が増え、生ワクチンがターゲットにしている4種類のインフルエンザウイルスを攻撃するのです。不活化ワクチンは血液中に抗体を作るだけで、そうした機能はありません」

■英国、カナダ、米国で推奨

 ここまで聞くと、いいことずくめのように思えるフルミストだが、注意点もある。①国が認めたワクチンでないため、万一、事故が起こったときには医薬品副作用被害救済制度の対象とならず、自己責任になる②接種後、鼻水や咳など軽い風邪症状が起きることがある③輸入ワクチンなので、予防できるインフルエンザワクチンの型が、日本で作られる不活化ワクチンの型と一部種類が違っていること④費用が医療機関により違っていて、おおむね8000円以上と高額なこと――などだ。

 何より気になるのは、16年6月に米疾病予防管理センター(CDC)が推奨を取りやめたことだ。

「取り消し理由は、ワクチンの温度管理が適切ではなかったなどの要因により、2013/14シーズンからワクチン効果の低下を指摘され、予想された効果が得られなかったためとされています。ただ、昨シーズンは一定の効果が確認されたこと、英国やカナダなどでは、ずっと子供には有効と推奨の姿勢を崩していないことなどから、今年に入り米国のCDCは再度フルミストを推奨したのです」

 ちなみに、このワクチンが使えない人は、「対象年齢以外の人」「5歳未満で喘息を患った経験がある」「1年以内に喘息発作があった」「心疾患・肺疾患・糖尿病・喘息・貧血・肝疾患など慢性疾患がある」「妊娠中、もしくはその可能性がある」「アスピリンを内服している」「重度の卵アレルギーがある」「4週間以内に生ワクチンを打った」「その他、医師が適切と認められない人」などだ。

 今シーズンのワクチン製造量は約7万本多く、「適正使用すれば不足は生じない」(厚労省)という。しかし、都内では出荷にムラがあり患者が希望通り接種できない医療機関も出ていて、昨年の「争奪戦」の二の舞いを警戒する声もある。

 子供がどうしても注射型インフルエンザワクチンを嫌がるが、インフルエンザワクチンを打つ必要がある人は、そのリスクも十分理解したうえで検討するのもいいかもしれない。

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