天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

体への負担が少ない心臓検査は1回受けてみる“勇気”が大切

天野篤氏
天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 近年、心臓疾患の手術では、体への負担が少ない非侵襲的検査が非常に重要であることを前回お話ししました。ここ10年、コンピューター技術の発達によって、CT、MRI、超音波(エコー)といった画像診断が急速に進化したことで、非侵襲的検査の有効性がどんどん高まってきているのです。

 それまで、心臓の検査で主流だったのはカテーテル検査でした。足の付け根や手首などにある動脈から、直径2ミリ程度の細い管を心臓近くまで挿入し、造影剤を注入して心臓や血管の内部を映し出す検査です。もちろん有効な検査なのですが、体内に管を入れたり、造影剤が腎臓に影響を与えるなど、どうしても患者の負担が大きくなる侵襲的な検査といえます。

 いまは、入院せずに外来で行ったり、短期間に何度も実施できるようになってきましたが、仮にトラブルが起こったときは血管を傷つけてしまうなど深刻な事態になりかねません。それだけに、検査を行う医師には一定の熟練度が要求されるのです。

 ですから、患者がカテーテル検査を受ける際は信頼できる病院を選ぶことが重要になります。たとえば、知らない土地に行ったとき、地図がない状態でわざわざ山道には入らないでしょう。それと同じで、病院のホームページや患者の間での評判など、信用できる医師のもとできちんとした検査が行われているかどうかを事前にチェックする必要があるのです。

 一方、非侵襲的検査の場合は、最新のカーナビを見ながら行動するようなものだといえます。トラブルの心配はほとんどないうえ、検査をする担当者によって結果に大きな差が出ることもありません。だれもが、害を被ることなく正確な診断を受けられます。侵襲的なカテーテル検査が主流だった頃とは大きく変わっていて、老若男女問わず、ほとんどリスクなく検査を受けられるようになったのです。

■ほとんどが保険診療で受けられる

 ただし、そのためには新しい診断機器を使っている施設で検査を受けなければなりません。そうした診断機器で検査を行っている循環器専門クリニックなどは、ホームページ上で「超高解像度の心臓CTを導入しました」とか、「より正確な診断ができる最新の超音波検査機器を使っています」といったように“売り物”にしているケースがほとんどです。

 クリニック側は、新しい診断機器の設備投資費を少しでも早く回収するために、大々的に宣伝してひとりでも多くの患者に検査を受けてもらおうと考えます。患者側からすると、何やら釈然としない気持ちを抱くかもしれません。しかし、最新の診断機器を使って安全かつ正確な検査を受けられるのは間違いないわけですから、自分の心臓に不安を感じたらクリニック側の“思惑”に乗ることは決して悪くはないのです。

 それに、一般的な診療機関は、健康保険が利かない自費診療をメインにしているところはほとんどありません。一部の特殊な内視鏡を使うようなケースを除けば、検査はほぼ保険診療で行われています。検査費用の面でも患者の負担は少ないのです。

 心臓の検査は、一回しっかり受けておけば、そのデータが次の検査に生かされます。必ず比較の対象になるので、心臓のコンディションが悪くなっているのか、変わらないのか、治療が必要なのか、様子を見ても問題ないのかを的確に判断する材料になります。そうした検査によって得られる正確な判断が、エビデンスにのっとった適切な治療につながります。

 また、自分でもいまの心臓の状態を把握できるため、生活習慣の改善に取り組むなど予防に対する意識も高くなります。これも心臓を守るうえで重要なことといえます。

 心臓検査は、まず1回受けてみる“勇気”が大切です。若くても高齢でも関係ありません。息切れや胸痛などの症状が気になっている人はもちろん、血圧や血糖値が高めだったり、近い親族に心臓疾患の人がいる場合、躊躇せずに循環器クリニックに飛び込んで、検査を受けることをおすすめします。それだけの価値があるのは間違いありません。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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