ステージⅣがん治療を断るとどうなる

がん患者はがんではなく、がん治療の副作用と闘っている

 私は母の闘病を目の当たりにして、「がんの治療を受けなければ、母は58歳という若さで亡くなることはなかったのではないか」「あれほど苦しみながら亡くなることもなかったのではないか」と何度も考えた。

 実は、母は一卵性双生児の妹を5年前にがんで亡くしており、その看護の経験から医療へ不信感を抱いていた。自分の治療への注文も口にしていた。母の担当の医師からは「扱いにくい、わがままな患者だ。本来なら出て行ってもらうところだ」など、今で言うドクハラ対応を受けていたが、母は弱音を吐かず治療に耐えていた。

 当時、“病は医師が治すもの”と信じていた私だったが、握った手に最後の力を込めて母が息を引き取った瞬間、強烈な医師不信、医療不信で体が震えたのだ。医師にはがんは治せない。健康な体は取り戻せない。強く実感した瞬間だった。

 それから33年間、医師に頼らずにがんを克服する術を考え続けてきた。

 病を治すということは、健康な体を取り戻すということにほかならない。アナウンサーの故・逸見政孝さんの例を引き合いに出すまでもなく、がんは“寛解”したが当の本人は亡くなった――という事例は枚挙にいとまがない。私は取材で、同じような例をいくつも耳にした。医師はこう言う。

「手術はうまくいった」

「治療は順調にいっている」

「あとは体力との勝負だ。気を強くして頑張ってください」

 これは、治療後の健康は患者の自己責任だと言っているようなものだ。このように、がん患者の多くはがんと闘っているのではない。過酷ながん治療に耐え、治療の副作用、そしてその治療によって起こる筋力、免疫力、代謝力の低下によって引き起こされるさまざまな合併症と闘い、そして力尽きていくのだ。

 私はがんを宣告されて、即座に医師の治療を断った。そこにはなんの迷いも不安もなかった。

笹川伸雄

笹川伸雄

ジャーナリスト。1946年、宮城県生まれ。医、食、健康のジャンルを得意とし、著書に「妙薬探訪」(徳間文庫)など

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