新薬2種類が承認間近…大きく変わる慢性便秘の治療最前線

定年で活動量が減るのも便秘増加の原因(写真はイメージ)
定年で活動量が減るのも便秘増加の原因(写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ

 国内初の慢性便秘症診療ガイドライン発刊から約1年。しかし、便秘を軽視している人はまだ少なくない。ガイドライン作成委員である横浜市立大学肝胆膵消化器病学教室の中島淳主任教授に便秘の恐ろしさと対策を聞いた。

「特に50歳以降の便秘は死に至る病気だと自覚すべき。慢性便秘がある人とそうでない人の15年にわたる米国の生存調査ではっきりと表れています。便秘がある人は、ない人に比べて生存率が低かったのです」

 理由はいくつもある。大腸がんやパーキンソン病などの重大病の症状として便秘が挙げられる。たまった便で腸に穴があくこともある。持病がある人が便秘でトイレでいきむと、持病の治療をきちんと受けていても、さまざまな問題が生じる。

「たとえば高血圧なら、血圧が上昇し、脳卒中やくも膜下出血などを起こす。COPD(慢性閉塞性肺疾患)であれば、低酸素血症で呼吸不全に陥る。トイレで倒れて救急搬送、という人が減らないのは、便秘と大いに関係しているでしょう」

「便秘は女の病気」と思うかもしれないが、消化器官の衰えなどから50代以降は男性にも便秘が増え、80代以降は男性が女性を上回る。

 便秘の恐ろしさはもうひとつある。対策が遅れると、便秘を専門に診ている医療機関でも治療が難しくなる点だ。「便秘=病気」という認識がないため放置する。これが年単位で続くと、硬い便が排便時に肛門を傷つけ、やがて便意を感じられなくなり、「自然な排便」が不可能になる。

■市販薬の多くは依存性が高い

 市販の便秘薬を使用する人もいるが、これはこれで最悪の結末を招くこともある。

「市販薬の多くは腸を直接刺激して、蠕動運動を引き起こす刺激性下剤です。習慣性、依存性が強く、まるで麻薬のように手放せなくなる。日本の男性は便秘の相談が恥ずかしいのか、放置や自己流の対策に頼る傾向が女性よりある」

 ガイドラインの便秘の定義は、「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」。排便回数が少ない(週3回未満)だけでなく、排便後スッキリしない(残便感)、便がバナナ状ではなくコロコロした便や水便、いきまないと便が出ない――などに該当するなら便秘と考え、内科や消化器内科を受診すべきだ。

 便秘の一般的な治療は、生活習慣の改善と薬物治療だ。薬は、依存性がある刺激性下剤は使わず(頓服的に使用する時を除く)、安全性が高いものを日常的に使う。

 ガイドラインが出た昨年は、便秘の薬といえば、酸化マグネシウムなど腸に水分を集め便を軟らかくする非刺激性下剤。酸化マグネシウムは1823年に日本にもたらされた古い薬で、臨床結果などの科学的根拠(エビデンス)はなく、用量を間違えると不整脈などのリスクがあった。

 エビデンスがある薬も承認されていたが、わずか2種類で、そのうち1種類は過敏性腸症候群の便秘に対してだった。しかし今年、慢性便秘症の適応追加承認が下り、過敏性腸症候群に限らず使えるようになった。それを含む3種類の薬が今年承認され、さらに近々、2種類の薬が承認される見通しだ。

「この2種類の薬のうち、ポリエチレングリコールは米国では便秘の7~8割に第1選択として使われ、小児の便秘にも使える非常に安全性の高い薬です。エビデンスに基づいた薬が6種類そろうことで、今後はより的確な便秘治療が行われるようになります」

 対策が早ければ、自然な排便を取り戻せる。今こそ「たかが便秘」の考えを改めるべきだ。

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