検査に痛みはない。ただ、瞳孔を強制的に開きっぱなしにする点眼薬をさされ、その効果が何時間も持続するのが厄介なのだ。
初めての時はまだ会社勤めをしていたので、検査のために午後、半休を取った。検査はあっけなく終わってしまい、そのまま帰宅するのもなんだかもったいない気がしたので、急きょ劇場で映画を見ていくことにした。
忘れもしない、クエンティン・タランティーノ監督の「キル・ビルvol.2」である。
眼底検査初心者の僕には、分かっていなかったのだ。点眼薬の効果が消えていない間の娯楽として、映画観賞がいかに向いていないかということが。
なにしろ瞳孔が全開の状態なので、何を見てもまぶしくて、字幕もろくに読めない。
しかも「キル・ビル」シリーズといえば、これでもかと言わんばかりの残虐な殺戮(さつりく)シーンの連続である。
スクリーンに飛び交う血しぶきすらまぶしくて、ストーリーを追うどころではなかった。
その後、検査を受けた時には、いさぎよく帰宅してしばらくは何もしないようにしている。
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