悪玉コレステロールが高いほど長生き 老年学研究者に聞く

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 健康で長生きしたければ、粗食をやめなさい――。こう言うのは、「長寿の嘘」(ブックマン社)を上梓した日本応用老年学会理事長の柴田博氏(医学博士)。さまざまな分野から老年学を長年研究する柴田氏に、健康長寿のために“本当に必要なこと”を聞いた。

■脳卒中やがんなどの総死亡率も低くなる

「コレステロールは低い方がいい」「肉は少なく、魚を中心に」「BMI(体格指数)が肥満なので痩せなくてはならない」「脂肪の多い食事は避けるべき」などと、思い込んでいないか?

「よく知られる長寿・健康学はほぼ間違い。国際的に評価されている論文は、まったく逆のことを示しているのです」

 いわゆる悪玉といわれているLDLコレステロール、総死亡率、循環器疾患死亡率の関連を60歳以上で検討した世界中の論文を総合評価した、世界初の研究が2016年に報告された。

 それによれば、19の対象集団のほとんどがLDLコレステロール値が高いほど総死亡率が低く、長生きするという結果だった。

 また、茨城県民男女約9万人(40~70歳)を10・3年追跡調査したところ、LDLコレステロール80㎎/デシリットル未満の死亡率を1とした場合、脳卒中やがんなどの総死亡率はLDLコレステロールの値が高くなるほど低くなった。

 総死亡率は寿命と表裏一体のため、LDLコレステロールが高いほど長生きするということになる。

「これはほんの一例で、コレステロール、BMI、脂肪、タンパク質などは数値が高い方が寿命が長い。粗食を良しとしてきた日本人の食事は、それでなくてもコレステロール、脂肪、タンパク質の摂取量が少ない。しかも今、1日当たりの総エネルギー摂取量は減少しており、飢餓状態だった1946年の1903キロカロリーを下回っています」

 この傾向は若者に顕著で、柴田氏は「今の食生活を続ければ健康長寿は望めない」と警告する。

■高齢になったら肉と牛乳を積極的にとる

 一方、高齢者は低栄養予防に欠かせないタンパク質などを使う力(利用効率)が落ちているので、若い時より積極的にタンパク質、中でも動物性タンパク質を摂取しなければならない。

 具体的な策として掲げるのが別表。

 東京都小金井市の70歳住民の10年間の追跡調査で、血中アルブミン値(低栄養の指標)が高いほど長生きすることが判明。そこで、健康状態が悪かった有料老人ホームで14項目を徹底して指導したところ、2年間で血中アルブミン値が上昇した。さらに、秋田県南外村(当時)の65歳以上の高齢者に指導。その前の4年間は男女ともに血中アルブミン値が年々低下していたが、指導後の4年間は男女ともに上昇した。

「中でも意識してほしいのが、表の8番目。血中アルブミン値の上昇には肉、牛乳の貢献が大きく、食欲がなければおかずを先に食べ、ご飯を残す。私や、私の後継者の研究で、血中アルブミン値の低下が寝たきりや認知症を招くことも判明しています」

 食欲の秋だ。がっつり、肉を食べよう。

【血中アルブミンを高めるには】
 ①3食のバランスをよく取る
 ②動物性タンパク質を十分に
 ③魚と肉は1対1の割合で
 ④多種の肉を食べる
 ⑤油脂類を十分に摂取
 ⑥牛乳を毎日飲む
 ⑦多種の野菜と果物を多めに
 ⑧食欲がなければ、おかずを先に
 ⑨調理法や保存法に習熟
 ⑩酢、香辛料、香味野菜を十分に
 ⑪和・中・洋とさまざまな調理法で
 ⑫共食の機会を豊富に
 ⑬義歯のチェックで噛む力を維持
 ⑭正しい健康情報を取り入れる

関連記事