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風疹で危ないのは予防接種を受けていない30~50代の男性

平原史樹院長
平原史樹院長(提供写真)
平原史樹院長 国立病院機構横浜医療センター(横浜市戸塚区)

“風疹”が猛威をふるっている。今年の感染者報告数は10月10日時点で1103人と、昨年の12倍のペース。2008年の全数届け出開始以降では2013年(1万4344人)、2012年(2386人)に次いで多い流行だ。

 風疹は「風疹ウイルス」が飛沫感染や接触感染によって広がり、発症すると「発熱」「リンパ節の腫れ(首の後ろ)」「発疹」「目の充血」などの症状が表れる。昔は子供に多い病気だったが、近年は発症者の約70%が成人だ。

 流行の原因は何なのか。2020年度の風疹排除を目指す国の「“風疹ゼロ”プロジェクト」の作業部会代表を務める同院の平原史樹院長(写真)が言う。

「今年は首都圏から広がっていますが、海外で感染した輸入感染が起爆剤になっている可能性が高い。流行してしまう最大の原因は、『30~50代男性』に免疫(抗体)をもたない人が多いからです。そして、最も防がなくてはいけないのは妊婦への感染。先天性風疹症候群を出さないことです」

 先天性風疹症候群とは、赤ちゃんに難聴、心疾患、白内障、精神や身体の発達の遅れなどの障害が出る病気。免疫をもたない妊娠初期(20週頃まで)の妊婦が風疹にかかると、胎児にウイルスが感染し、先天性風疹症候群をもつ赤ちゃんが生まれる可能性がある。2012~13年の大流行では45人も確認されている。その再来が危惧されているのだ。

■2回のワクチン接種で免疫は99%できる

 風疹は過去に一度かかったり、予防接種(2回)をした人は免疫ができるのでほぼかからない。ワクチンを1回接種して免疫ができる割合は約95%、2回接種で約99%とされている。

 いまの子供は1歳と5歳のときの2回、麻疹風疹混合(MR)ワクチンが定期接種に導入されているので、風疹にかかる可能性は非常に少ない。最もリスクが高いのが、過去の定期予防接種制度の関係で1回も接種していない人が多い現在30~50代の男性というわけだ。

 子供の頃に風疹にかかった記憶のある人でも抗体検査を行ったところ、約半数は記憶違い、または風疹に似た他の病気だったという調査結果が出ているという。

「風疹の既往や予防接種の記憶があいまいな人は、とにかくワクチンを接種してほしい。発症者の8割は男性で、7割は職場でうつし合っています。女性の場合、3分の1は夫からうつされ、3分の1は職場でうつされています。妊娠中はワクチンを打てないので、妊婦さんは抗体検査をして免疫のない人は流行期は会社を休んだ方がいい」

 そして、発症したら当然、発疹などの症状が消えるまで会社を休むことが重要。妊婦の夫や子づくりを考えている夫婦は、抗体検査で免疫を確認したほうがいいという。抗体検査は自治体の助成対象になっている。MRワクチンの接種は自費で1回1万円ほどだ。

 では、国内の風疹ゼロは可能なのか。

「集団免疫閾値といって、人口の85~90%が免疫をもつことが排除の目標です。ゼロにはできないが散発例ですみます。いま30~50代男性の免疫保有率は80%を切る。ですから多くの中年男性に風疹排除の意識を高くもってもらいたいのです」

 企業の中には社員のワクチン接種費用を負担する会社もある。社会全体で取り組むべき課題だ。

▽1977年横浜市立大学医学部卒。米国メイヨークリニック、横浜市立大学医学部産婦人科学講座教授、横浜市立大学付属病院病院長を経て、16年から現職。〈所属学会〉日本産婦人科学会、日本産婦人科医会、日本先天異常学会など。

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