がんと向き合い生きていく

恐怖のない安寧な死はある 104歳の女性患者に教えられた

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 ある年の2月末、Rさんは水分以外ほとんど食事を取らなくなりました。部屋を訪ねると、いつものように右手を出して握手を求められます。私が「食べたくないの?」と尋ねると、「眠りたいのよ。このままでいいの」とおっしゃるのです。

 80歳に近い息子さんと今後について相談したところ、「母から『最期は延命処置をしないでくれ。自然に』と自筆の書をもらっています。自然にお願いします」とのことでした。

 それを受け、私は特に医療的処置を行わず様子を見ていました。それでも、およそ10日後には食事を少しずつ取れるようになり回復されました。

 3月の末になり、施設の前にある大きな2本の桜が満開になった時、私は「車いすに乗って桜を見よう」と誘ってみました。しかし、「桜? 見なくてもいいよ。もう、たくさん見たから……」と断られてしまいました。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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