■このまま眠って死んでいいのに
それから7月ごろになって、Rさんは再び食べなくなりました。吸い飲みでお茶やコーヒーなどはむせることもなく飲まれますが、食事はされません。
ある時、ベッドの上で目を閉じているRさんに声をかけると、左指で上まぶたを上げ、目をぎょろっとさせて「お! 先生、今何時? そう、10時か。私はまだ死んでいないのか。このまま眠って死んでいいのに」と口にされました。
またある時は、「まだ生きていたか。もういいのに。苦しくもなんともないよ」と言われ、私が「お迎えが来ないと逝けないから」と話すと、「うん」とうなずかれました。
次第にRさんは目を閉じていることが多くなり、呼びかけても返答のある時とない時を繰り返すようになりました。そして、近くの公園にたくさん咲いたコスモスを冷たい小雨が揺らしている日の午後に静かに息を引き取りました。息子さんは、「私も母のような死に方をしたい」と話されました。
がんと向き合い生きていく