がんと向き合い生きていく

恐怖のない安寧な死はある 104歳の女性患者に教えられた

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

■このまま眠って死んでいいのに

 それから7月ごろになって、Rさんは再び食べなくなりました。吸い飲みでお茶やコーヒーなどはむせることもなく飲まれますが、食事はされません。

 ある時、ベッドの上で目を閉じているRさんに声をかけると、左指で上まぶたを上げ、目をぎょろっとさせて「お! 先生、今何時? そう、10時か。私はまだ死んでいないのか。このまま眠って死んでいいのに」と口にされました。

 またある時は、「まだ生きていたか。もういいのに。苦しくもなんともないよ」と言われ、私が「お迎えが来ないと逝けないから」と話すと、「うん」とうなずかれました。

 次第にRさんは目を閉じていることが多くなり、呼びかけても返答のある時とない時を繰り返すようになりました。そして、近くの公園にたくさん咲いたコスモスを冷たい小雨が揺らしている日の午後に静かに息を引き取りました。息子さんは、「私も母のような死に方をしたい」と話されました。

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佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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