発症から5年以内が危険 脳卒中後は自殺リスクが10倍に

働き盛りの独身男性は注意
働き盛りの独身男性は注意(C)日刊ゲンダイ

 秋が深まってきた。気温が下がり、一日の寒暖差が大きくなると、脳卒中(脳梗塞、脳出血)リスクが高まってくる。脳卒中は、日本人の死因の第3位を占め、患者数が約118万人(2014年の厚労省患者調査)に達する怖い病気だ。命が助かっても後遺症に悩む患者やその家族は多く、寝たきり老人の3割、要介護者の2割を脳卒中患者が占める。ところが、脳卒中には一般には知られていない後遺症がある。自殺や事故死だ。発症した人は5年以内に自殺や交通事故などで亡くなる率が高くなる。注意が必要だ。

 警察庁の自殺統計によると、2017年の日本の自殺者数は2万1321人。8年連続減少というが、まだまだ多い。

 自殺の背景にはうつ病などの精神疾患が存在することが知られているが、身体疾患も自殺リスクを高める。実際、脳卒中を発症した人は5年以内に自殺や交通事故などで亡くなる確率が高いという。国立がん研究センターが全国9保健所管内に住む40~69歳の11・7万人を追跡調査した研究がある。14年発表で脳卒中になっていない群に対する、脳卒中発症5年以内の群の自殺並びにその他の外因死のリスクは共に約10倍だった。弘邦医院(東京・葛西)の林雅之院長が言う。

「研究では脳卒中後に自殺並びに事故で亡くなった人の数が数十人と少なく、そのうち発症5年以内で亡くなった人はさらに少なくなります。そのため10倍という数値は割り引いてみる必要があります。それでも、脳卒中を発症すると、うつ病リスクが高まることがわかっています。ご存じのようにうつ病は自殺の最大のリスク要因です。また、うつ病によってうつ状態になると、交通事故や転落などの不慮の事故に遭いやすくなることが知られています。認知機能が衰えるからでしょう。身体的、認知的な障害により、仕事や私生活で不自由な思いをすることでも自殺が増える可能性が高くなるのは間違いありません」

 脳卒中は、脳血管が障害されることによって起きる。後遺症は、それで脳が損傷を受けることが原因だ。脳へのダメージが自殺や交通事故などの外因死を招きやすいことはアメリカンフットボール選手を対象にした研究でもわかっている。脳振とうなど、脳への損傷を繰り返すことで慢性外傷性脳症(CTE)になる選手が多く、認知機能の低下から錯乱・抑うつ状態が続き、自殺することもあるという。

「米ボストン大学医学部の報告で、引退したアメフトの選手から死後提供された202人分の脳標本を調べたところ、177人(87%)がCTEだったことが明らかになっています。生前に認められた症状から軽症と重症とに分けたところ、軽症者の死因で最も多かったのは自殺(12人、27%)だったそうです。また、軽症者も重症者も生前、自殺行動が見られたことが報告されています」(林院長)

■自殺を図った人たちの特徴は?

 そのヒントになるのがスウェーデンでの研究だ。2001年から12年までに登録された同国の脳卒中患者のデータベースを使い、脳卒中発症後の自殺または自殺未遂の人数を調べた。約22万人の脳卒中患者のうち登録期間中に1217人が自殺を図り、うち260人が死亡した。スウェーデンの自殺率の2倍近くに相当した。

「この調査では、自殺を図った人の特徴を分析しています。①18歳から54歳までの比較的若い人は85歳以上の人に比べて5・89倍も高い②一人暮らしが多い③女性より男性が目立つ④脳卒中の症状が重い⑤脳卒中後にうつ病を発症⑥大学卒業者より初等・中等教育卒業者が多い⑦脳卒中を発症して2年後に集中している――などです。もちろん、これらの特徴はスウェーデンでのもので日本にそのままあてはまるわけではありません。しかし、ヒントにはなるはずです」(林院長)

 WHO(世界保健機関)によると、自殺が起こると、最低でも6人、職場や学校では数百人に深刻な影響を及ぼすという。集団の士気が下がるだけでなく、自殺が新たな自殺を呼ぶこともある。身近に脳卒中の人がいたら、日頃から注意を向けることだ。

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