一体、なぜ……。そう思われた人は、少なくないでしょう。64歳で亡くなった女優の角替和枝さんの命を奪ったのは、原発不明がんと報じられました。
一連の報道によると、今月23日から開幕する児童向け舞台の演出を務める予定で仕事をされていたようで、容体が急変したのはこの1カ月とみられます。忍び寄る病魔が、原発不明がんだったとは、一般の方には理解しにくいでしょう。
一般にがんが最初にできた臓器を原発巣と呼びます。それがある程度大きくなって転移が始まりますから、転移より原発巣の方が大きいはずですが、免疫とのせめぎ合いの中で原発巣だけ免疫に消されて転移が残るケースも少なからずあるのです。それが、原発不明がんで、成人の固形がんのうち3~5%といわれています。
原発不明がんでも、確定診断のためには、細胞を採取して調べる病理検査が欠かせません。それで、がん細胞に存在する特定のタンパク質の有無を調べたりして、がん細胞がどの臓器に由来するか調べるのです。CTやPETなどの画像検査や腫瘍マーカーのチェックなども行いますが、それでも原発巣を特定できないがんが、原発不明がんとなります。
そのため、原発不明がんには、がんの部位や組織型が異なるさまざまな病態が含まれていて、患者さん一人一人でがんの状態が大きく異なるのが特徴です。
■原発不明がんに最適な薬剤はまだ確立されず
では、治療はどうするかというと、転移があるので薬物療法が中心で、シスプラチンやカルボプラチンといったプラチナ製剤がよく使われます。しかし、がんの薬物療法は、臓器ごとに使用すべき薬物が厳密に決まっているケースが多いのが現状です。
それでも、原発不明がんにプラチナ製剤が使われるのは、プラチナ製剤が多くの臓器に有効なため。原発不明がんでは、最適な薬剤が確立されていません。
ただし、亡くなってから病理解剖を行うと、5割程度の確率で原発巣が分かるようになっています。今後、検査精度が上がっていくと、原発不明がんと診断される方は減っていくかもしれません。そうなれば、原発巣ごとに決められた治療を確実に受けられるようになりますから、角替さんのような悲劇が生まれることはもっと少なくなります。
一方、プラチナ製剤以外の薬剤の組み合わせについても、臨床試験が進行中です。原発不明がんというと、見えない敵と戦うようで厄介ですが、光がないわけではありません。原発不明がんと診断されたら、臨床経験が豊富な各地のがん拠点病院に相談することが大切です。
Dr.中川のみんなで越えるがんの壁