人は遺伝子の奴隷なのか

染色体がカギを握る なぜ血友病は男性のみに発症するのか

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写真はイメージ(C)PIXTA

「筋ジストロフィー」「血友病」「赤緑色覚異常」などほぼ男性にしかあらわれない病気が存在するのをご存じだろうか? 男女の違いであらわれ方が異なる遺伝現象を「伴性遺伝」と呼ぶ。原因はこの伴性遺伝にある。カギを握るのは染色体だ。遺伝子を載せた入れ物のことで、X染色体とY染色体がある。ヒトは男女とも46本23対の染色体を持っており、23種類の染色体は必ず2本1組で構成される。ヒト染色体は男女が共通に持つ44本22対(XX)の「常染色体」と男女で異なる2本1対(男はXY、女はXX)の「性染色体」とに分かれる。

 X染色体の遺伝子に突然変異が起こると、1本しかX染色体をもたない男性は必ずその表現型があらわれてしまう。しかし、女性はX染色体を2本もっているため、両方とも突然変異しない限りは表現型としてはあらわれない。この違いが“ほぼ男だけの病気”をつくる。国際医療福祉大学病院内科学の一石英一郎教授が言う。

「人は誰でも突然変異により機能が変化したり、失ったりした遺伝子を複数もっています。ただし、異常な遺伝子があってもその形質があらわれない人を保因者と呼び、あらわれる人を発症者と呼びます。例えば、性染色体に変異型のX染色体(仮にXmとする)を持つ父親(XmY)と正常なX染色体(X)を2本持つ母親(XX)から娘が生まれたとしましょう。その娘は必ず変異遺伝子を持つ保因者となります。しかし、2本のX染色体のうち1本は正常ですから発症者にはなりません。生まれたのが息子だったとしても、息子は母親から正常なX染色体を受け継ぐため、XYとなり発症者にはなりません」

 しかし、母親が保因者だったら話は別。その息子はXmYとなり、必ず発症者となる。娘の場合は父親がXm染色体を持っていない限り、保因者にはなっても発症者にはならない。

 つまり、発症者の父と保因者の母の間の娘と息子はそれぞれ半分発症者になり、発症者の母と正常な父との間の息子は必ず発症者となる。

「簡単に言えば男女を決める染色体においてどこか壊れていると、女性(娘)の場合はスペアがあるので補うことができますが、男性(息子)の場合はスペアがないのでその遺伝子は欠損となり病気になりやすいのです」

 X染色体の遺伝病は現在600種類ほど報告されているが、赤緑色覚異常は日本人では男性で20人に1人、女性では500人に1人くらいの割合で発症するといわれる。

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