意外に知らないホルモンの実力

女性ホルモンが減少する閉経後も乳がんを発症するのはなぜ

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 女性ホルモンは「女らしさ」をつくり、「子づくりの準備」に威力を発揮する。卵巣から「エストロゲン(卵胞ホルモン)」と「プロゲステロン(黄体ホルモン)」の2種類が分泌されている。東京都立多摩総合医療センター内分泌代謝内科の辻野元祥部長が説明する。

「女性ホルモンは、母親の胎内では子宮や卵巣などの女性生殖器を発育させ、生まれて思春期になると乳房や乳腺を発育(2次性徴)させます。また、脳に働くと協調性をもたらす『オキシトシン』というホルモンの作用を増強させます」

 女性の月経周期は、エストロゲンとプロゲステロンの分泌が交互にピークを迎えることで起きている。エストロゲンは排卵直前に最も分泌が高まり、子宮内膜を厚くさせる。女性を美しくする効果が強いので「美人ホルモン」とも呼ばれる。つまりこの時期、男の精子をゲットできるように“女子力”が増すのだ。

 そして排卵後はプロゲステロンがピークを迎える。厚くなった子宮内膜をさらにフカフカなベッドに整えて、受精卵が着床しやすいように準備する。しかし、排卵後、約2週間経っても受精卵がやってこなければベッドは不要になる。子宮内膜の壁がはがれて、血液と一緒に排出されるのが“月経(生理)”だ。

 プロゲストロンの多い時期は、精神的不安定や腹痛、頭痛、だるい、眠気など体調が悪くなることが多い。重症化すると「月経前症候群」と呼ばれる。また、女性ホルモンは病気の抑制や発症に大きく関係する。

「女性ホルモンは妊娠・出産で不足しがちのカルシウムを補いやすくするため、カルシウムの吸収を促すビタミンDの作用を増強し、骨をつくる細胞も活性化させています。それに血管を丈夫にして、動脈硬化や血栓ができないようにする作用も備えているのです」

 そのため、女性ホルモンが急激に減少する閉経後は、これらの防御作用がとれて骨粗しょう症や脳・心血管障害の発症が増えるのだ。一方で、女性ホルモンは乳がんの発症を促す。では、閉経後も乳がんの発症が多いのはどういうことなのか。

「閉経後は副腎から分泌される弱い活性の男性ホルモンが、脂肪組織内のアロマターゼという酵素によってエストロゲンに変換されるのです。肥満は閉経後、乳がんの最大リスク。閉経後の乳がん治療では、アロマターゼの働きを阻害する薬が使われています」

 更年期障害のホルモン補充療法は改良が進み、今は乳がんや血栓のリスクが少ない。ただし、たばこでリスクが上がるので注意が必要だ。

関連記事