かなりの覚悟だったでしょう。キャスターの小倉智昭さん(71)が自ら司会を務める情報番組のエンディングで「私ごとで申し訳ないのですが」と神妙な面持ちで膀胱がんで膀胱を全摘することを語りました。
膀胱を取り除くと、尿をためるところがなくなるので、お腹に穴をあけて尿をためるビニールの袋を設けるのが一般的です。人前で仕事をされる方ですから、決断されるまでは迷いもあったことでしょう。
しかし、2016年5月に公表した膀胱がんは内視鏡手術を受けたものの完治しておらず、この夏に激しい痛みとともに出血し、止血手術を受けたほか、10月には20日間にわたる膀胱炎を併発。そういうことが重なり、かねて医師から「全摘しなければ完治しない」といわれていたこともあり、手術に踏み切ったと報道されています。
小倉さんの病状は、4年前に同じ膀胱がんで亡くなった俳優の菅原文太さん(享年81)に近いかもしれません。文太さんは、膀胱の粘膜から筋層に及ぶ進行した浸潤がんで、大きさは3センチ。別の病院で内視鏡で切除したものの、再発リスクが高く、全摘を勧められたそうです。
■菅原文太がこだわった立ち小便
私の外来に来られたのはそんなときで、07年3月のことでした。全摘宣告のショックからか、軽いうつ状態と見受けられましたが、こう言われたのです。
「立ち小便ができないようじゃあ、菅原文太じゃねぇ!」
膀胱温存を望む強い意思をひしひしと感じたのです。温存療法に取り組む筑波大病院を紹介。抗がん剤治療に陽子線治療を加えた治療を受け、それから7年、最期まで元気に活動されていたことをよく覚えています。
膀胱がんは、粘膜の表面に乳頭状にできる「表在性がん」なら、内視鏡で切除できます。しかし、粘膜をはうように広がる「上皮内がん」は悪性度が高く、浸潤がんになるリスクが高い。報道によると、小倉さんも浸潤がんといいます。
膀胱全摘のつらさは、文太さんの言葉が物語っているでしょう。そんな事態を免れるためには、とにかく早期発見に尽きます。
血尿や排尿時の痛み、排尿回数の増加などが膀胱がんの主な症状ですが、痛みがなく、血尿がわずかなことも少なくなく、治ったと思って受診が遅れる人が珍しくありません。1年に1回の検診で、血尿の有無をチェックし、それで陽性ならすぐに泌尿器科を受診することです。
早期発見できると比較的治りやすいのですが、4~5割は再発するため、内視鏡治療後も定期的な検査が欠かせません。