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座りすぎ研究 座位時間が長いほど総死亡リスクは高くなる

立って働くのがいい、右は岡浩一朗教授
立って働くのがいい、右は岡浩一朗教授(提供写真)
早稲田大学・スポーツ科学学術院 岡浩一朗教授

 デスクワークは「座ってやるもの」という固定観念にしばられていないか。そう思い込んでいたら危険。働けば働くほど、知らずに病気のリスクが増すからだ。2000年ごろから、世界中で座りすぎの健康リスクの研究(座位行動研究)が急速に進んでいる。

「日本人の成人が1日に座っている時間は約7時間で、世界20カ国のデータと比較して最長です」と話すのは、国内の座位行動研究の第一人者である岡浩一朗教授(写真)。座りすぎと病気や死亡率との関係は、欧米を中心に数多く報告されているという。

「オーストラリアの研究(12年報告)では、平日1日に座っている時間が4時間未満の人に比べて、4~8時間、8~11時間、11時間以上と、長い人ほど総死亡率のリスクが11%ずつ高くなることが分かりました。さらに、座位時間が長くなるほど、心血管疾患で死亡するリスクが18%ずつ高まるという結果も出ています」

 また、テレビを見るために1時間座り続けるごとに、平均余命が22分間短くなるという報告(12年)もある。がんとの関係を調べた研究も多く、子宮内膜がん、結腸がん、乳がん、肺がんなどをトータルで見ても、座りすぎが罹患リスクを20%高めている(14年報告)ことが分かっているという。

■運動しても解消されない

「座りすぎ=運動不足」だから“健康に悪い”と思いがちだが、そうではないという。

「座りっぱなしの時間が長いと健康リスクを高めるメカニズムは十分解明されていませんが、座りすぎることで太ももの筋活動が低下し、血流も悪くなり、病気につながると想定されています。大切なのは、運動不足と座りすぎは“別もの”と考えることです。毎日運動していても、それ以外の時間に座りすぎていると、せっかくの運動による健康効果を減少させてしまうのです」

 日本の就労者の約4分の3がデスクワークに従事しているとされ、その多くが起きている時間の60%以上の時間を椅子に座ってパソコンなどと向き合っている。仕事中の座りすぎを解消するには「30分のうち3分、少なくても1時間のうち5分は、定期的にブレーク(立って体を動かす)するのが理想」という。立てる状況でなければ、膝を伸ばして太ももに力を入れたり、つま先立ちを繰り返すなどでもいい。

 座りすぎは健康リスクを高めるだけでなく、仕事の効率や意欲、活力なども低下させる。

 そこで岡教授が提唱しているのが、立っても座っても仕事ができる「スタンディングデスク」の職場への導入だ。通常のデスクの上に設置する簡便なものもある。近年は外資系やベンチャーなど、導入する企業が増えている。

「座りすぎ対策は、会社組織として介入しないと個々の社員では取り組みにくい。立ちたいときは立って、座りたくなったら座る、仕事の仕方を社員が自由に選択できることが重要なのです」

 対策に積極的に取り組む企業には、「肩こり・腰痛の解消」「集中力が高まる」「社員間の会話が増える」「姿勢が良くなる」などのいい効果が生まれているという。

 座位時間が急激に伸びたのは文明の恩恵。これからの時代は「便利」をどう使うかが「健康」のキーワードだ。

▽1999年早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程を修了。博士(人間科学)。早稲田大学、東京都老人総合研究所を経て、06年早稲田大学スポーツ科学学術院准教授に着任。12年から現職。〈所属学会〉日本運動疫学会副理事長、日本健康教育学会理事、日本行動医学会理事など。

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