歯周病が全身の病気に関係する3つの理由 がんとの関連性も

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「Floss or Die」は、20年以上前に米国の歯周病学会が発表したスローガンだ。フロス(糸ようじ)を選ぶか、死を選ぶか――。日本でも今、これが問題視されている。 

「死」というのは、「動脈硬化を招き、心筋梗塞や脳卒中による死」。つまり、冒頭の言葉が意味するのは、フロスで口腔ケアを選ぶのか、それとも将来、心筋梗塞などによる死を迎えるのか、ということだ。

 東京・港区で歯科と内科(循環器内科、心療内科)を併設する「欅坂上医科歯科クリニック」を2016年に開いた歯科医師、伊東令華院長の狙いは、「相互関係にある歯科疾患と循環器疾患をひとつのクリニックでケアする」。

「心臓病の患者さんの口腔内を手術前に診ると、口の中がボロボロというケースは珍しくありません。先に歯の治療が必要と判断されると、よほど心臓病の治療が緊急でない限り、手術の日程を遅らせることもあります」(伊東院長)

 歯周病治療がおろそかだと、心臓病手術後の経過が悪く、誤嚥性肺炎のリスクも高くなるからだ。歯周病が「口の中だけの問題」という時代は去った。いまや「歯周病は全身の病気に関係する」という考えが、歯科医・医師の間では常識だ。

 理由はいろいろあるが例えば、心筋梗塞、脳卒中につながる動脈硬化に関しては、主に3つ挙げられる。まず、歯周病による慢性炎症。これで免疫や炎症に関係があるサイトカインが次々に誘導され、血液を介して全身に運ばれ、特に血管をつくる内皮細胞を攻撃。内皮細胞は病的に変形し、動脈硬化を起こし、血管の内径が細くなる。

 次に、歯周病を起こす歯周病原菌が口腔内で繁殖して全身に運ばれると、歯周病原菌は血液を固める作用が強いため、血栓ができる。

 さらに、繁殖した歯周病原菌を排除するために、マクロファージという細胞が活性化されサイトカインを放出したり動脈硬化を促進する。 

 昨今の研究で、歯周病は動脈硬化のほか、さまざまな病気との関連性が指摘されている。鶴見大学歯学部探索歯学講座・花田信弘教授によれば、糖尿病、がん、関節リウマチ、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)、アルツハイマー病など。

「歯周病が全ての臓器に影響を与えることは疫学的に分かっていましたが、エビデンスが足りませんでした。しかし今、機序も明らかになってきた。歯周病原菌を人間の体から除去しないと、病気の対策はできません」(花田教授)

■症状がなくても問題があるケースも

 ところが、一般の人には歯周病対策の重要性がイマイチ伝わっていないのが現状。「歯医者に何年も行っていない」という人も多いのではないか。伊東院長が言う。

「内科医にすすめられて当院を受診した患者さんの中には、60年以上、歯医者に診てもらっていない方もいました。歯周病は『症状がないから問題なし』ではありません。歯周病の症状は、『歯磨きをすると血が出る』『歯茎が腫れる』『歯がグラグラする』『膿が出る』『痛む』などですが症状がある時とない時を繰り返して悪化していきます。また、初期では症状が軽いので放置しがちで、症状を自覚した時には中等度から重度の歯周病になっていることも珍しくありません」

 最低でも3カ月に1度は歯科医を受診し、口腔内のチェックとクリーニングをすべき。特に、高血圧や糖尿病、脂質異常症など生活習慣病や心臓血管病のある人は、歯科と循環器科の専門医が連携して治療にあたるクリニックを探してみるとよい。

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