がんと向き合い生きていく

意識はなくても「生きている喜びがある」状態は存在する

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 Fさんは覚悟していましたが、「一度はまた意識が戻ってくれないか」という期待も抱いていました。しかし、少しでも長く生きて欲しいと思う一方で、時には「意識が戻らないなら、このまま生きていることは幸せなのだろうか?」と考えたり、ある人から「意識がなく、経管栄養で生かされては生きている意味がない」と言われたのを思い出したりもしました。

■意識がなくても「気持ちいい」と言っている

 そのまま、また夏が来ました。ある日の午後、Mさんの病室には開けられた窓からさわやかな風が入ってきていました。病室に着いたFさんは汗を拭きながら、Mさんの顔色を見て「今日も変わりないな」と思いました。

 そんな時、担当のR看護師がやってきて、Mさんに声をかけました。

「Mさん! 今日は気持ちいいですね。良かったですね。旦那さんが来られているのも分かっていますよね。そう、うれしいですね。ほら、Mさん喜んでおられますよ」

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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