子供が学校に行きたがらない。落ち込みがち。表情が暗くあまり笑わない――。子供の様子にちょっとした「陰り」が見えてきたら、どうすべきか?
「適応障害」といわれる状態がある。WHOの診療ガイドラインでは「ストレス因により引き起こされる情緒面や行動面の症状で、社会的機能が著しく障害されている状態」と定義されている。
心療内科・精神科の専門医療機関である「赤坂クリニック」の貝谷久宣理事長は次のように言う。
「適応障害は、病気と健康の“境目”にいる状態です。適応障害は大人に起こるものと考えられがちですが、子供にも見られます。子供の場合は“不安”が強く、大抵、赤ちゃんの頃からその傾向があります」
貝谷理事長によれば、赤ちゃんの時に「すぐ泣く」「男の人に抱かれると怖がって泣く」「人見知りが極端に激しい」などがあると、人より不安が強い可能性が考えられる。
一般的には、成長の過程で不安を乗り越える経験を繰り返し、“鍛錬”されていく。しかし、そうでないケースもある。
「保育園や幼稚園では、お母さんがいない新しい環境になかなか慣れない。小学校入学後は、学校に行くのを嫌がる。普通はすぐに忘れてしまうような失敗でも、大きなダメージを受けるようになる」
■ストレスがなくなれば6カ月以内に回復
A君は小学5年の時、父親の転勤で地方都市から東京に転校。それまで住んでいたのは大人も子供も皆、顔見知りの地域で、おとなしい性格のA君にも友達がたくさんいた。
しかし引っ越し先は進学に熱心な親が多く、クラスメートの大半は中学受験のために塾通い。周囲に同調せねばと、両親はA君に中学受験をさせようとしたが、通い出した塾で「今の成績では難しい」と言われた。
腹痛や頭痛を訴えて学校や塾に行きたがらなくなったのは、小学校6年の夏休み明けだ。
両親は「受験から逃げている」と叱ったが、A君はその都度黙り込み、次第に部屋に閉じこもりがちになった。
貝谷理事長が言う。
「適応障害は引き金となったストレスがなくなれば、6カ月以内に回復します。しかしストレスがあるままでは、やがてうつ病や不安障害に移行する可能性があります」
子供の適応障害では、大きな役割を果たすのが親だ。
「怒ったり、子供がやりたくないことを強要させるのは逆効果。『なぜやりたくないのか』に耳を傾け、本人が抱えている問題を知る。『どうすればできるのか』『どこまでならできるのか』など、解決法をともに探っていく。子供の気持ちに共感し、理解することが大事です」(貝谷理事長)
A君のケースでは、小児の心療内科を親が受診。医師のアドバイスを受け、A君と繰り返し話をする中で、親の「みんなが中学受験をするのだから、我が子にもそれをさせることが親の務め」という気持ちと、「転校という大きな環境の変化に加え、中学受験もしなければならなくなったのが大きなストレス」というA君の気持ちに大きな乖離があることを、親が理解した。
親が態度を改め、A君の自主性を重んじるようになるにつれて、A君は徐々に登校するようになり、クラスメートとも打ち解けていった。
「適応障害、つまり“病気とは言えない”状態の間に親が手を打つことが大事。早い段階で心療内科や精神科に相談するのも手です。小児も安全に使える不安を抑制する薬もあるので、場合によっては使うのもいい。事態が長引くと、本格的なひきこもりになる恐れがあります」
ちょっとした変化も見逃してはいけない。