人は遺伝子の奴隷なのか

遺伝情報が変化 強い恐怖やショックは子供に受け継がれる

写真はイメージ(C)PIXTA

「この研究で興味深いのは実験用の雄マウスが電気ショックによりサクランボの匂いに恐怖を植え付けられた時点では、子供マウスは母親マウスの胎内にはいなかった点です。もちろん、雌マウスには同じ実験は行っていません。つまり、サクランボの匂いに対する恐怖心は、精子内のシステムを介して子孫に伝えられたと考えられたのです」

 そこでケリー博士らは、恐怖心を植え付けられた雄マウスから子孫に受け継がれた精子の中から遺伝子「M71」を調べた。この遺伝子は鼻の中で、桜の花の匂いにとくに敏感な嗅覚受容体の機能を制御する遺伝子。しかし、子孫マウスの「M71」の塩基配列には異常はなかったという。ただし、後成遺伝的痕跡が見られたことから、この痕跡が遺伝子に変化をもたらし、子孫の代に再び発現したと考えられる。

「本来、生物の遺伝情報はDNAに刻まれて後世に伝えられますが、生活習慣やストレスなどの刺激的な出来事により、それが後天的に変化を起こして遺伝情報が切り替わってしまうことがあります。これをエピジェネティクスといいます。ケリー博士らの実験では実験用の雄マウスの精子の遺伝子にエピジェネティクスが起きたと考えられるのです」

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