人は遺伝子の奴隷なのか

がん、糖尿病、虚血性心疾患、骨粗しょう症も遺伝病だ

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 遺伝子研究が進んだことで、これまでは遺伝子とは関わりがないとされた病気も実は遺伝子が影響を与えていることがわかってきた。例えば同じウイルスや細菌に感染しても重症化する人と症状がまったく出ない不顕性感染で終わる人がいる。その違いはそれぞれの免疫力という体質によるところが大きく、遺伝的要因が関与していると考えられている。

 国際医療福祉大学病院内科学の一石英一郎教授が言う。

「病気の原因は大別すると環境的要因と遺伝的要因があります。これまでは糖尿病、本態性高血圧、虚血性心疾患、骨粗しょう症、神経変性疾患などは環境的要因と考えられてきました。しかし、その人が続けてきた生活習慣以外に遺伝的要因が発症に大きな影響を与えることがわかっています。その意味では、がんを含めたこれらの病気は多因子遺伝疾患と言えます」

 遺伝子病は特別でまれな存在で、健康な人には関係ないと考えられてきた。ところが、現在では半数以上の人は一生涯のうちに何らかの遺伝性の病気にかかるといわれる。

「遺伝病について多くの人には『遺伝病とは親から子へ遺伝する病気』という誤解があります。遺伝病はあくまでも遺伝子や染色体の異常によって起こる病気であり、親から子へ伝わる、伝わらないというものではありません。つまり、親の遺伝子に異常があって子供に伝わる場合もあるが、親が正常でも突然変異によって起こる遺伝病もあるのです」

 遺伝病は一般に5分類される。「単一遺伝子疾患」「染色体異常」「多因子遺伝病」「ミトコンドリア遺伝病」「体細胞遺伝病」だ。

 単一遺伝子疾患とは人を構成する2万7000個の遺伝子の1つの遺伝子異常により発症すると考えられる病気だ。ハンチントン病やフェニルケトン尿病、デュシェンヌ型筋ジストロフィーなどがある。

 染色体異常とは、染色体部分の過剰や欠失により、遺伝子群の量的不均衡を起こし、遺伝子の発現異常による諸症状を来す状態を言う。通常、ヒトの染色体は22対の常染色体と2個の性染色体から成るが、ある染色体のすべて、あるいは一部分が多くなったり(トリソミー、テトラソミー)、少なくなったり(モノソミー)することにより発症する。ダウン症候群などを思い浮かべる人もいるだろう。

 多因子遺伝病は複数の遺伝子と環境要因の相互作用によって発症する。口唇口蓋裂、先天性心疾患など体の1カ所に形の異常が起こるものや、糖尿病、高血圧、心筋梗塞、胃潰瘍などが挙げられる。

 ミトコンドリアはエネルギーを作り出す細胞小器官。そのミトコンドリアが異常を来すと大量にエネルギーを使い、骨格筋系や中枢系に問題が生じる。心筋はもちろん、難聴、糖尿病、腎障害などの合併症がみられる。

 体細胞遺伝病とは受精後の体細胞分裂の際に生じるもので、伊藤白斑、男性の色素失調症などがある。

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