咳や痰が続きつらいなら疑うべき…「気管支拡張症」とは?

50代女性。胸部X線写真(左)では見落とされやすいが、CT(右)では明らか
50代女性。胸部X線写真(左)では見落とされやすいが、CT(右)では明らか(徳田医師提供)

「長引く咳」に悩んでいるようなら、もしかしたら気管支拡張症かもしれない。近年、欧米では一度忘れられかけたこの病気に注目が高まっている。JCHO東京山手メディカルセンター呼吸器内科の徳田均医師に聞いた。

 風邪が治っても咳や痰がいつまでも続き、つらく、夜も熟睡できない。

 これらの症状が見られる病気のひとつに気管支拡張症がある。この病気は、何らかの要因で気管支に傷ができ、そこに細菌が定着。過剰な免疫反応で炎症が慢性化し、結果的に気管支が拡張する。 

「かつては、結核や小児期の肺炎などをきっかけに発症し、その後感染を繰り返して徐々に悪化していくものと理解され、治療も消極的なものでした。しかし、抗菌薬が普及し、ワクチン接種で小児の肺炎が減少。これに伴い、気管支拡張症の注目度も低下し、“orphan disease”と呼ばれたこともあります」

 orphan diseaseとは、「極めて患者数が少なく、製薬企業が関心を示さないような病気」という意味だ。

 ところが最近の研究で、気管支拡張症は増えており、その約50%はこれといった病気がなくても発症する特発性(原因不明)で、風邪の後だけ症状が出るといった“軽症の気管支拡張症”も多いと分かってきた。

 そして、最初は軽症であっても、一部の人は繰り返しているうちにゆっくりと進行し、階段などで息切れをきたすようになることもある。関節リウマチ、潰瘍性大腸炎などの全身性炎症性疾患との関連が強いことも明らかになってきた。

 この流れを受けて、昨年9月には初の国際治療ガイドラインが発表された。欧米ではメカニズムや治療法などが盛んに議論され、欧州、米国、オーストラリアで大規模な患者調査がスタートしている。

■見逃されているケースが珍しくない

「ところが、日本ではガイドラインがなく、大半の医師の間で重要視されていません。症状だけから風邪やCOPDなど別の病気と診断されている可能性もあります」

 徳田医師の元には、間質性肺炎や重症の気管支拡張症などの難病で苦しむ患者が全国からやって来るが、長引く咳の患者も診ることが多い。そのうち、50代以上で「この数年、風邪のたびに咳と痰が長引き苦しんでいる」と訴える患者については、HRCT(高分解能CT)を行うと、だいたい2人に1人くらいの割合で気管支拡張症が見つかるという。

 なお、徳田医師は50代未満の人には、よほど気管支拡張症が疑われるケースを除き、CTを勧めていない。これらの年代のほとんどが吸入ステロイド薬で咳が治まるアレルギー性の咳だからだ。CTには医療被ばくの問題があり、過剰診療は避けなくてはならない。

「軽症や中等症の気管支拡張症はレントゲン検査だけでは判別しづらい。正しい診断にはHRCTが必要です。CTの画像を読み解く放射線科医の技量も問われます」

 治療方法はまだ確立していない。「抗菌薬を5~7日間投与(静注投与あるいは吸入投与)」「マクロライド(抗生物質の一種)の長期投与」「吸入ステロイド」などさまざな治療法が欧米では検討されている。

「治療の目標は、『急性悪化の頻度を減らす』『患者のQOL(生活の質)改善』『疾患の進行を食い止める』。私の場合、軽症の気管支拡張症の患者さんであれば、風邪がきっかけで咳が出た時に早めに受診してもらい、キノロン系抗菌薬を5日ほど投与。その後、1年間咳の症状が出なかった患者さんもいました。短期間の投与であれば、耐性菌はできません」

 長引く咳には、百日咳や咳ぜんそく、アトピー性の咳などいくつかの原因が考えられる。そのひとつに、気管支拡張症も入れるべきなのだ。

■長引く咳とは

 ガイドラインでは3週間以上続く咳を「遷延性」、8週間以上を「慢性」としている。しかし徳田医師は患者のQOLなどを考慮し、「2週間以上」を長引く咳と捉え、治療にあたっている。症状に悩んでいる場合は、徳田医師の診察は完全予約制のため、まずは呼吸器内科の専門医を探して相談を。

関連記事