がんと向き合い生きていく

いくら時代が変わろうと「命が一番大事」なのは変わらない

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

■ある学生から気になる内容のレポートが…

 オーストリアの精神科医、V・E・フランクルは、著書「それでも人生にイエスと言う」で、「社会に役立つことが人間の存在を測ることのできる唯一の物差しではない」「人間の生命を生きる価値のない生命とみなして、その生きる権利をはく奪する権利はだれにもない」と言っています。 今年、私はある大学の医療系学生120人に対しての講義(がん診療における患者の生と死)の中で、命は代替不可能であること、Mさんのこと、R看護師、高谷清氏、相模原事件、そしてV・E・フランクルについてお話ししました。講義の後に学生全員からリポートが送られてきて、その中で1人だけとても気になる内容がありました。

「社会的に役立たない人は延命しないで死んでしまえば……という考えが必ずしも間違っていないように思えて仕方ないのです。……命はいったいなんなのでしょうか? 死にゆく人たちを守るために、これから生きていく命をおびやかすことは果たして許されることなのでしょうか?」

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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