独白 愉快な“病人”たち

料理研究家の相田幸二さん 1型糖尿病で一時はどん底に…

相田幸二さん
相田幸二さん(C)日刊ゲンダイ

「料理研究家が糖尿病になった」

 今年1月下旬、そんなニュースがネットに流れました。ボク自身が自分のブログで病気を公表したからです。

 見出しだけで判断されたら料理研究家として致命的なマイナスですが、誤解が多い「1型糖尿病」を、少しでも多くの人に理解してもらうきっかけづくりになれば、それでいいと思いました。

 病気が分かったのは今年の正月休み中です。異変は去年12月に風邪のようなだるさから始まりました。ちょうど子供が風邪をひいていたので、「もらったかな」と考えていたんです。ただ、喉の痛みや熱もないので放置していると、喉が渇いて、一日中ペットボトルをがぶ飲みするようになりました。夜トイレに4~5回起きるといった症状も表れ、クリスマスごろには歩くのがしんどい状態になっていました。でも仕事が忙しく、病院に行くタイミングを逃したまま年末を迎え、家族で東京にやってきたのです。

 大晦日の前日になってようやく「これはただごとではなさそうだ」と思い、年末でもやっている八重洲のコンビニクリニックへ出掛けました。もちろん長蛇の列です。2時間待たされてやっと診察を受けましたが、喉の腫れも熱もないので風邪薬も出ず、「血液検査と尿検査の結果は年明けになります」と言われ、手ぶらで帰されました。

 食欲もないまま新年を迎え、数日東京で過ごした後、地元の仙台に戻ると受診したクリニックから電話があり、「ちょっと大変なので、すぐ救急車を呼んで大きな病院へ行ってください」と告げられました。

 何がどう大変だったのかというと、「血糖値が600㎎/デシリットル以上ある」とのこと。健康体なら高くても140㎎/デシリットル程度なので、まさしく異常事態です。

 総合病院の糖尿病科を受診すると即入院となって、「1型糖尿病」と診断されたのです。生活習慣病ともいわれている一般的な糖尿病は、2型糖尿病のこと。ただ、2型の中にも不摂生が原因じゃない人もいるんですけどね。

 一方の1型は小児糖尿病といわれていた病気で、原因は不明です。分かっているのは自己免疫によってインスリンを出す細胞を攻撃してしまい、インスリンが出にくくなるということ。遺伝でも食生活でもなく、防ぎようがないといわれている病気です。

 医師から「今の医学では不治の病。インスリン注射は一生です」と言われたときは、どん底に落ちました。インターネットでも「寿命が短い」とか、「合併症が出ると余命5年」といった極端に偏った情報であふれていて、「俺はもうダメなんだろうな」と思ってしまったんです。

 でも、同じ病気でも頑張っているスポーツ選手や子供たちのことを知るにつれ、意識が変わっていきました。病気の公表を決意したのは主治医から「誤解が多い病気なので、相田さんのような方が1型糖尿病を公表して周知活動していただけると、医師としても助かります」と言われたことでした。

 調べてみると、1型糖尿病は10万人に1~2人しか発症しない難病で比較的子供が多い。食前のインスリン注射をするために、年齢によっては親が学校に付き添わなければならないし、運動などで低血糖になったら糖分の補食が必要です。すると「あの子だけ特別扱い」と誤解されたりもする。

 もっといえば就職の際に「糖尿病である」と言うと語弊が生じて不採用になったり、成人すると医療費控除が外れ、月2万円前後の薬代がのしかかってくる。発症率が低いので国の研究費も少なく、寄付を募って補填しているのが現状なのです。そんなことを知れば知るほど、病気について発信したい思いが強くなりました。

 先日は、あるお母さんからお手紙をいただきました。「娘が1型糖尿病になってしまって毎日泣いていたのですが、テレビの中の“こうちゃん”が同じ病気だと知って少し元気になりました」と書いてありました。公表した甲斐があったというものです。

 この病気に食事制限はありません。必要なのはインスリンによる血糖コントロールだけ。1日1回基礎インスリンを打ち、毎食前に速効型インスリンを打ちます。ただ、インスリン1単位で血糖値がどのくらい下がるかは個人差があるので、まだ探り探りの状態です。 大好きなラーメンも、食べるときはおっかなびっくり。脂質が多く含まれるものは忘れた頃に血糖値が上昇するので怖いんです。そういう意味で丼ものやカレーは、病気が分かってからは、いまだに食べていません。「未知の食べ物」と呼んでいます(笑い)。=聞き手・松永詠美子

▽あいた・こうじ 1975年、山形県生まれ。16歳からホテルの和食部門で板前修業をし、その後サラリーマンを経て2005年に料理レシピのブログを開始する。ヤフーブログランキングで常に上位を維持するほどの人気を博し、レシピ本「こうちゃんの簡単料理レシピ」(宝島社)を発売。仙台を拠点にテレビやラジオ、雑誌などで活躍するほか、講演活動も行っている。

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