意外に知らないホルモンの実力

【オキシトシン】自閉症の治療薬として試される絆ホルモン

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写真はイメージ)(C)日刊ゲンダイ

 腎臓に働きかけて尿量を調節する「パソプレッシン」ときょうだい関係にあるホルモンが「オキシトシン」だ。どちらも脳の視床下部でつくられ、その下にある下垂体後葉から分泌されている。構造も似ていて9個のアミノ酸からできている。東京都立多摩総合医療センター内分泌代謝内科の辻野元祥部長が言う。

「オキシトシンの体への作用は、古くから女性の分娩(ぶんべん)時に子宮を収縮させたり、乳腺を刺激して乳汁分泌を促すことが知られていました。しかし、男性にも分泌されていて、さまざまな研究で脳への作用が分かってきたのは近年です。パソプレッシンが『縄張り意識』や『仲間以外への攻撃性』を高めるのに対して、オキシトシンは『思いやり』や『信頼感』を高めるように働いていると推測されています」

 オキシトシンにはいくつもの別称がある。母親が我が子に愛情を注ぐようになる作用や、パートナーとの愛情を深めるように作用することから「愛情ホルモン」といわれている。また、性交渉やスキンシップで分泌が高まることから「抱擁ホルモン」とも呼ばれる。

 2005年に行われた海外の研究では、オキシトシンをかいだ被検者たちが「信頼ゲーム」で投資家役をより信頼しやすくなることが明らかになった。「信頼ホルモン」でもあるのだ。

「人は恋をすると好きな異性を獲得するためにドーパミンの分泌が高まり、一生懸命にアピールします。そして、2人が結ばれ肌が触れ合い、子供ができると、今度はオキシトシンが強く働いて一体感をもった家族愛が生まれる。ですから『絆ホルモン』や『浮気防止ホルモン』とも呼ばれるのです」

 ところが結婚生活が長くなり子供も成長すると、夫婦間の愛情が薄れていくという話はよく聞く。その場合、夫婦間のスキンシップがないことを指摘する研究者が少なくない。オキシトシンは、スキンシップだけでなく、ペットと触れ合うことでも分泌が高まるという。

 オキシトシンの研究が遅れていたのは、分泌の過不足があまり病気と関係しないからだ。国内では陣痛誘発や分娩促進などに注射剤のみが保険適用になっている。

「最近、発達障害の一種の『自閉スペクトラム症』の対人コミュニケーション障害に、オキシトシンの経鼻スプレーを使うと協調性が改善されることが報告されました。いま日本で、医師主導で治験が進められています」

 オキシトシンには、まだ秘めた力がありそうだ。

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