4月に国内初導入 AIが患者に最適なクスリの情報を提供

AI導入は医師だけではなく患者にとってもメリットが大きい
AI導入は医師だけではなく患者にとってもメリットが大きい(提供写真)

 近年、さまざまな分野で実用化が進んでいる人工知能(AI)は、医療分野でも活用の動きが広がっている。がんをはじめとしたさまざまな病気の診断や治療、手術にAIを利用するための研究も進んでいる。そんな中、岡山大学病院薬剤部では、4月から患者に最適な薬剤情報を提供するためにAIを国内で初めて導入した。システムの開発を主導した同大薬品情報室の神崎浩孝氏に詳しく聞いた。

「○○○と×××をメインでいってるけど、側管から△△△いっても大丈夫?」

 病棟担当の薬剤師は、医師や看護師からクスリに関する質問を頻繁に受ける。人によって異なる言い回しや表現を理解し、状況に応じて迅速に最適な回答を求められる。しかし、医薬品情報は膨大なため、クスリについての情報を調べて確認する作業も必要になってくる。

 そうした作業を効率化するため、同大では2004年から約8000件に上る医薬品についてのデータベースを「Q&A」形式で蓄積してきた。該当する医薬品に関する過去のQ&Aを参照する場合、パソコンなどの端末で複数の単語をスペースで区切って入力し、検索する。しかし、経験が浅い若手薬剤師らは、的確な単語を組み合わせることに苦労して、目的の情報になかなかたどり着けないケースもあったという。

 そうした“不具合”を補助するためのツールとして選ばれたのがAIだった。

 蓄積してきたQ&Aを最新の情報にアップデートして整理したものをAIに学習させ、パソコンやタブレットなどの端末から質問すると最適な回答が提供される。同大は、そんなAI搭載型医薬品情報提供支援ツール「aiPharma(アイファルマ)」を木村情報技術と共同で開発し、4月から運用をスタート。すべての病棟薬剤師がタブレットを携帯して、臨床現場で活用している。

「最大の強みは、異なる言い回しや曖昧な表現をそのままの自然な話し言葉で入力しても、AIが文脈から意味を読み取り、意図を正確に認識して適切な回答を提供してくれるところです。たとえば、クスリには一般名(成分名)と製品名(商品名)があって、さらに現場での呼称もある。そのため、これまでは打ち込む単語によっては検索に引っかからない場合がありました」

 また、クスリを「投与」するという意味の言い回しには、「打つ」や「いく」と表現することもあるため、何度も打ち込む単語を入れ替えないと、求めている「答え」にたどり着けないケースもあった。

「今回開発したAIには、いくつもあるクスリの名称や、臨床現場で使われている同じ意味の表現を同義語として教え込んでいます。また、正確なキーワードがなくても、AIには自然言語を認識して意図を読み取る能力があるので、医師から質問された言葉をそのまま入力してもAIが迅速に最適な回答を探し出してくれるようになりました」

 さらに、関連度の高い回答を提示したり、ガイドラインの治療アルゴリズムや薬剤の一覧表も見ることができる。AIが質問の意味を正確に認識できない場合は、AI自身が確信度を判断し、回答できないように設定されているという。

■薬剤師を補助して医療事故を未然に防ぐ

 AIの導入は、現場で働く薬剤師を補助してパワーアップさせる。

 それだけでなく患者にとってもメリットは大きい。

「医師が新薬やあまりなじみのないクスリを使う場合や、投与量や用法などを勘違いしたり度忘れしても、最適な回答が提供されます。そのため、患者さんに間違った情報が伝えられるケースが減るのは間違いないでしょう。近年、点滴や麻酔薬の投与ミスによる医療事故が起こっていますが、こうした事故は小さなミスが積み重なって発生するものです。AIの活用によって、そうした小さいミスが減ることは、患者さんの身を守ることにつながります」

 現在もさらなる改良が進められていて、音声認識による回答や、クスリの飲み合わせについての複数のQ&AをAIが自己学習して最適解を回答できるようなシステムを構築しているという。

 AIが本格的に医療分野で活用される時代は遠くない。

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