軽い病気と思っていたら…糖尿病患者は感染症を甘く見ない

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 冬は糖尿病が悪化しやすい季節だ。日本を含めた北半球では直近2カ月の血糖値近似値を示すHb(ヘモグロビン)A1cが12~3月で最も高いことがわかっている。そこで心配になるのが感染症だ。糖尿病の人は免疫力が下がり、あらゆる感染症にかかりやすい。日本糖尿病学会の調査によると感染症はがんに次いで2番目に多い糖尿病患者の死因である。水虫から足を切断したり、風邪やインフルエンザで命を失ったりすることもある。実際、感染症による炎症が脳梗塞や心筋梗塞、がんなどさまざまな病気の原因になっている可能性もあるのだ。糖尿病の人は感染症を甘くみてはいけない。

 糖尿病の人がかかりやすい感染症のひとつが尿路感染症だ。尿道から感染し、膀胱炎、腎盂炎、腎盂腎炎と症状が重くなる。女性に多く、陰部のかゆみ、残尿感、排尿痛などの症状が表れる。風邪やインフルエンザといった上気道炎や、白癬(水虫)やカンジダ症といった皮膚疾患、歯周病、さらには胆のう炎などにも注意が必要だ。しかし、糖尿病の人の感染症が厄介なのは健康な人ならまず発症することのない、ごく珍しい場所で珍しい感染症にかかることだ。

 ある50代の女性は9月ごろからせき込むようになった。2週間経っても、せきはやまず、熱もあった。「肺炎かもしれない」と考え、近くの呼吸器内科のクリニックを受診。問診と喉の検査、X線撮影を行ったが、「肺に影があるようだが、病名はわからない」と言われた。

「より詳しい検査をした方がいい」と別の病院を紹介されCTを撮るなどしたが、やはり診断はつかなかった。仕方なく大学病院の呼吸器内科の門を叩いたが、やはり「肺炎かどうかはわからない」と告げられた。

 それでも、1カ月間検査を続けた末、ようやく病名が判明した。予想した肺炎でなく「肺化膿症」だった。延べ20万人の糖尿病患者を診た、糖尿病専門医で「エージーイー牧田クリニック」(東京・銀座)の牧田善二院長が言う。

「肺化膿症とは、肺に感染した一部が壊死に陥った化膿性炎症です。原因菌は各種嫌気性菌のほか黄色ブドウ球菌、肺炎桿菌、大腸菌、緑膿菌などです。食べ物が誤って気管に入る誤嚥が原因になることが多い病気で、原因菌の多くは口腔内の偏性嫌気性菌であることが多いといわれています」

 治療の基本はペニシリンやアンピシリンといった抗菌剤の投与。一般的には投与から2~7日で熱が下がり、4~6週で治療は終了する。幸い50代のこの女性も薬の投与だけで治療は終わった。

「女性はHbA1cが8%を超えていました。以前はよく膀胱炎を発症していたようです。肺化膿症を発症したのは仕事のストレスを、大好きなショートケーキを食べることで解消するようになったせいだろうと、この女性はお話しされていました」

■血糖値が上昇して重症化するケースも多い

 そもそも糖尿病の人が感染症になりやすいのは感染防御機構が破綻しやすいからだ。

「例えば、白血球の成分である好中球は体内に細菌やウイルスが侵入するとそれを取り囲んで貪食します。ところが血糖が高いと、この機能が低下するのです。また、ヒトには免疫反応と呼ばれるシステムがあります。一度感染した病原体に対して抗体を作ることで、同じ病原体が侵入したときに対処するのです。血糖が高いと、やはりこの免疫反応も弱くなってしまうのです」

 高血糖だと血流が悪くなり、酸素や栄養素だけでなく病原体と戦う白血球も届きにくくなる。当然、感染でダメージを受けた細胞などの修復が遅れる。こうしたことも糖尿病の人が感染症に弱い原因となっている。

「糖尿病の人が糖尿病以外の病気になることを『シックデー』といい、急激に血糖値が上がることがわかっています。そのため特別な対応が必要となります。病気になると、病原体と対抗するため体からアドレナリンなどのストレスホルモンやサイトカインが分泌され、血糖値を上げます。健康なら同時にインスリンを分泌して血糖値を調整するのですが、糖尿病の人はそれができません。そのため、血糖値は30%以上、上昇するといわれているのです」

 最初は軽い風邪だと思っていても、血糖値が上がり、みるみる重症化することも多いという。食事がとれない、症状が悪くなったという人は迷わず病院に行くことだ。普段インスリンが必要のない糖尿病患者でも、一時的にインスリンが必要となる場合もある。

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