がんと向き合い生きていく

無理な「在宅」で最期まで“自分らしい暮らし”ができるのか

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 がん対策の会議に出席するたび、終末期の「在宅」について本当に大丈夫だろうか? と、私はいつも心配しています。

 病院では療養型病床は激減し、60日以内退院の在宅支援病棟ができています。老健施設でも在宅復帰率をカウントする時代となり、いまは「時々入院、ほぼ在宅」なのだそうです。

 かつて、妻が在宅で私の両親の介護にあたったことがあります。次第に2人とも下の方の世話が必要になる回数が増えました。よく「人間の尊厳」といいますが、老人が自分で排泄をコントロールできなくなった時の情けなさ、自分のプライドを捨てなければならない親も哀れでした。便を廊下にこぼしたり、布団を汚したり……。自分で拭いて洗って済ませようとして、それがかえって周りを汚してしまいました。

 妻は頑張りました。一日に何回も老人2人の尻を拭き、食事を用意して……。風呂の時は介護のヘルパーさんが来てくれても、「死んだ方がいい」と言われると、妻もつらくなったといいます。

1 / 5 ページ

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

関連記事