がんと向き合い生きていく

無理な「在宅」で最期まで“自分らしい暮らし”ができるのか

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 試しに特養老人ホームを見学に行くと300人以上の待機者がいて、何年待つか分からないと言われました。

 朝早くから夜遅くまで、重症がん患者を診る私の勤務は続きました。ある年の正月、私が父母の介護を担当しました。夜中、呼び鈴が鳴りました。行ってみると、トイレに立った父が「汚してしまった。悪いなー」と言います。私は「大きなおむつだから、そのまま動かないでいてと言ったでしょ! こんなに汚してしまって!」と思わず声を張り上げてしまいました。親に向かって大きな声を出す自分自身が情けなくなりました。私はようやく、妻ひとりでの介護はもう無理だと実感したのです。

 その後、両親を老健施設に入れていただきましたが、3カ月ごとに別の施設に移るのも大変でした。入所後、妻は食事の介助に行って、前よりも優しくしてあげられたといいます。精神的にも楽になったのです。父母も笑顔を見せることが多くなりました。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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