天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

眉間のしわが深い人は心臓病リスクがアップするのは本当か

順天堂大学医学部付属順天堂医院の天野篤院長
順天堂大学医学部付属順天堂医院の天野篤院長(C)日刊ゲンダイ

 眉間のしわが深い人は心臓疾患で死亡するリスクがアップする――。そんな研究結果が報告されています。フランスの研究チームが約3000人の健康な成人を対象に額のしわを評価し、20年間にわたって追跡調査を実施。しわが深い人は、しわがなかった人に比べて心血管疾患で死亡するリスクは9・6倍だったといいます。

 研究者は、「しわの形成と動脈硬化にはどちらもコラーゲンの変化や酸化ストレスが関与しているため、しわが動脈硬化の初期兆候として表れるのではないか」と説明していますが、はっきりした理由はわかっていません。当然、この研究だけでは眉間のしわが心臓疾患の発症リスクを高める因子であるともいえません。ただ、心臓を守るための心がけを考えるうえで、参考になる研究報告だといえます。

 われわれが眉間にしわを寄せるのは、イライラしたり、怒ったり、不安だったり、困ったときなどです。いずれも、ストレスを受けたり、緊張していて交感神経が高まった状態です。交感神経が優位になると、神経伝達物質のアドレナリンが大量に分泌されます。アドレナリンは心拍数を増加させて血流を増やす効果と、血管を収縮させる効果で極端に血圧を上昇させます。その結果、心臓の負担が増えてしまうのです。

 つまり、眉間のしわが深い人は、頻繁に交感神経が高まっている状態にさらされているということで、それだけ心臓に負担をかけているのです。

■イライラしたら血圧と脈拍を測定する

 眉間のしわもそうですが、貧乏ゆすりだったり、髪をかきむしったり、机をトントンと指で叩いたり、われわれがストレスを感じているときに出るしぐさはいくつもあります。まずは、自分がストレスを受けてイライラしたときにどんな身体的傾向が表れるのかを知っておく。そのうえで、そうしたしぐさが出たときは早めにイライラを解消するよう意識すれば、交感神経が高まった状態を短くすることができます。その結果、心臓にかかる負担を減らせるのです。さらに、できることならイライラしているしぐさが表れたときに血圧と脈拍を測ってみると、より効果的に心臓を守ることができます。「収縮期血圧」(上の血圧)と「脈拍」(心拍数)を掛けたものは「ダブルプロダクト」といわれ、その数値が上昇すると心臓の負荷が高まり、心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントのリスクが高くなることがわかっています。

 自分がイライラしているときにダブルプロダクトがどれくらい高くなっているのかをチェックしておけば、心臓疾患のリスク因子が数値化されて見えてきます。それを把握しておけば、心臓病予防のための自己管理や、心臓に異変を感じたときにより適切な治療に結びつけることができるようになるでしょう。

 いまはスマートフォンなどの端末やスマートウオッチなどのウエアラブル機器を利用して、手軽に血圧や脈拍をチェックすることができます。心臓に不安がある人は試してみてください。

 ただ、あまりにも厳格に自己管理を行うと、逆効果になるケースもあります。イライラするたびにきっちり血圧と脈拍を計測するとなると、自分の行動をすべてタイムカード化するみたいなものですから、かえってストレスを感じてしまう場合があるのです。これでは本末転倒です。新しい機器を活用して自己管理を実践することをわずらわしく感じてしまう人は参考程度にとどめておくほうがいいかもしれません。もちろん、そういった自己管理が好きな人にはおすすめですし、心臓疾患のリスクがアップする高齢者、すでに心臓疾患を経験したことがある人などは、ウエアラブル機器を使って自分の生体情報を管理する方法が効果的なのは間違いありません。

 いずれにせよ、今回取り上げた眉間のしわと心臓疾患の関連といったような医療情報は、「心臓を管理するためのひとつの入り口」程度に考え、自分の性格や生活を振り返りながら取り入れていくかどうかを判断するのが望ましいといえます。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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