Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

英医学誌に注目研究 生活習慣病の薬と発がんリスクの関係

なるべく頼らない(写真はイメージ)
なるべく頼らない(写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ

 高血圧は、心筋梗塞や脳卒中などを引き起こす生活習慣病です。患者数は4300万人と推計されていますから、厄介な血管病の予防で、降圧薬を飲んでいる人は少なくないでしょう。そんな高血圧を巡って、がんとのかかわりを指摘する論文が発表されました。

 10月24日付の英医学誌「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル」(BMJ)に掲載されたもの。内容を簡単に紹介すると、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬を服用すると、肺がんのリスクが増すというのです。ちょっとショッキングでしょう。

 ACE阻害薬は、ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)やカルシウム拮抗薬、利尿薬と並んで高血圧治療ガイドラインに定められた第一選択薬のひとつ。ポピュラーな薬で、大体10人に1人が服用しているといわれます。ポピュラーな降圧薬ですから、この読者も飲んでいるかもしれません。

 論文をまとめたのは、カナダの研究グループ。1995年から20年にわたって英国の高血圧患者99万2000人を追跡したところ、ACE阻害薬を服用したグループは、ARBを服用したグループに比べて肺がんの発症率が14%高かったのです。その傾向は長く服用しているほど強く、10年超服用すると、発症率は31%に上がると報告しています。

 論文の内容は、あくまでも疫学研究で、ACE阻害薬と肺がん発症の因果関係を証明するものではありません。しかし、データは英国の準公的機関の数値で、なおかつサンプル数が多く、追跡期間が長いので、信頼性は高いといえます。

 たかが疫学調査の結果を取り上げたのは、似たような状況がほかの薬で過去にあったのです。血糖値を下げる薬のひとつ「アクトス」(一般名ピオグリタゾン塩酸塩)とその合剤は2011年、フランスとドイツで新規患者への投与を禁止されました。長期の服用により、膀胱がんの発症リスクが高まる可能性があるとの発表を受けてのことでした。

■抗がん剤で白血病も

 それから7年、その報告は論争を呼び、日本はもちろん、各国で検証研究が行われています。膀胱がんの発症リスクがあることを肯定する内容もあれば、否定するものもありますが、「否定できない」という見方でほぼ間違いないでしょう。

 アクトスや合剤が発売された当初、添付文書に膀胱がんに関連する記載はありませんでしたが、一連の検証作業を受けて厚労省はメーカーに添付文書の改訂を指示。両論が併記されるようになったまま記載が残っているのは、アクトスと膀胱がんとの因果関係が否定できない証拠といえるでしょう。

 抗がん剤は、がんを治療するための薬ですが、実は抗がん剤を使うことで白血病を発症することは治療の現場では日常茶飯事。「えっ」と驚かれるでしょうが、現実なのです。食材として摂取する分には問題なくても、ベータカロテンやビタミンEなどのサプリメントががんを増やすことも間違いありません。

 では、どうすればいいのか。やみくもに薬に頼るのではなく、薬の使用は最低限に。それが薬との賢い付き合い方といえます。がんの一部も生活習慣病になりつつありますが、がんも含めて生活習慣病は生活習慣の改善なしにはよくならないのです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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