有名な絵画、ムンクの「叫び」をモチーフにして心臓弁膜症の検査や受診を啓蒙する公共広告機構のキャンペーンCMが流されています。動悸、息切れ、胸痛といった弁膜症のサインとなる症状を分かりやすく伝える内容です。
高齢化や食生活の欧米化が進んだことで増えている病気で、心臓の中で血液が効率良く一方通行で流れるように調整している4つの「弁」のいずれか、または複数がうまく働かなくなることで起こります。弁がきちんと閉じなくなって血液の逆流や漏れが生じる「閉鎖不全症」と、弁が開かずに血流が悪くなる「狭窄症」があり、中でも大動脈弁狭窄症は突然死する可能性もあります。
といっても、いまは弁膜症のさまざまな治療法が出揃ってきています。進化した人工弁や生体弁に交換する弁置換術、カテーテルを使ったTAVI(経カテーテル大動脈弁留置術)など状況に応じた選択肢は増えているので、いたずらに不安になる必要はありません。
ただ、「どのタイミングでどんな治療を行うのが安全かつ適正なのか」をきちんと見極めることが大切です。数ある心臓疾患の中でも、弁膜症は自覚症状から診断、治療を進めていく最も典型的な病気といえます。ですから、何よりも自覚症状を把握することが最適な治療につながります。
■ニューヨーク・ハート・アソシエーション分類が参考になる
心臓疾患の自覚症状はさまざまありますが、いちばん分かりやすく段階的に評価されているのが「ニューヨーク・ハート・アソシエーション分類」と呼ばれるものです。ニューヨーク心臓協会が定めた心不全の程度を分類したもので、日常生活の身体労作によって生じる自覚症状に基づいて判定されます。
4段階に分類され、クラスが上がれば重症度もアップします。参考までに細かく見てみましょう。
クラスⅠ:心疾患はあるが身体活動に制約はなく、通常の労作では、疲労感、動悸、呼吸苦が生じない状態。競技スポーツも行うことができる。
クラスⅡ:身体活動に軽度の制約があり、安静時には苦痛はないが、通常の身体活動が、疲労感、動悸、呼吸苦を認める状態。軽いジョギングやレクリエーションゴルフはできるが、競技スポーツは苦しくてできない。
クラスⅢ:身体活動に高度の制約があり、安静時に苦痛はないが、通常以下の身体活動で、疲労感、動悸、呼吸苦を認める状態。自分のペースなら何とか家事を行ったり歩いたりすることはできる。
クラスⅣ:いかなる身体活動も苦痛を伴う状態。安静時にも疲労感や呼吸苦がある、または少しでも身体活動を行うと苦痛が増加する状態。
自分の心臓の状態を把握するうえで重要になるのが、「表れている自覚症状によって、生活制限をどの程度受けているのか」を見ることです。ニューヨーク・ハート・アソシエーション分類もそうですが、自覚症状を生活制限に置き換えて考えることで、より正確な判定につながります。
たとえば、それまで休みなしで歩けていた距離を歩けなくなったとか、階段がおっくうになって一息で上れなくなった、まわりの同年代の歩く速度についていけなくなった、いままで通してできていた作業が一休みしないとできなくなったなど、何らかの生活制限がある場合、たとえ動悸や息切れといった典型的な自覚症状が出ていなくても、心臓疾患が疑われます。かつてはなかった生活制限そのものが症状として表れているケースもあるのです。
こうした分類にあるような生活制限に当てはまる場合、できるだけ早く一度は心臓超音波検査などの非侵襲的検査を受けましょう。早期に弁膜症を見つけられれば、それだけ治療の選択肢が増えるので、たくさんのバリエーションの中からより早く確実で安全な方法を選ぶことができます。それによって、心臓はコンディションが良い状態を維持できますし、大がかりな治療をすることなく、最終的には生活制限がなくなった状態で一生を送れるようになります。 典型的な自覚症状だけではなく生活制限にも目を向けることが、より心臓を守るのです。