Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

毎日5杯のコーヒーで肝臓がんの発生率は4分の1に低下する

勝谷誠彦さんは肝硬変で急逝
勝谷誠彦さんは肝硬変で急逝(C)日刊ゲンダイ

 忘年会シーズンに、気になる訃報がありました。コラムニストなどでおなじみの勝谷誠彦さんの命を奪ったのは、肝不全だそうです。57歳の若さでした。

 8月に重症アルコール性肝炎で入院され、その後の治療で回復されたこともあったようですが、先月の再入院後に容体が急変。28日に息を引き取ったといいます。

 肝不全の具体的な病態は肝硬変で、肝臓がんになる手前の状態。肝臓がんではありませんが、肝臓がんとの結びつきが強いので、お話ししましょう。

 慢性的に肝臓に炎症が生じた慢性肝炎が悪化すると、肝硬変に進展。それがさらに悪化すると、肝臓がんになります。これまで肝炎を起こすのはC型肝炎ウイルスが80%で、B型肝炎ウイルスが10%と、圧倒的大多数が肝炎ウイルスでした。

 そのウイルスの感染経路として大きいのは、輸血でしたが、血液製剤をめぐる事故が相次いだことで、血液製剤の製造が厳格に見直され、ウイルスが混入することはありません。新規感染者はほとんどいないため、肝炎ウイルス由来の肝臓がんは減少に転じています。今後はさらに減るでしょう。

 これまでの肝臓がんは感染症の要素が大きかったのです。しかし、ウイルスの感染ルートがほぼなくなると、事情は変わります。そうではない肝臓がんが増えるとみられているのです。

 そのひとつが、アルコール性肝炎。およそ18万人を対象にした国立がん研究センターの大規模調査によると、男性は多量飲酒で肝臓がんのリスクが上昇します。多量飲酒とは、正味のアルコール量で1日69グラム以上。日本酒換算で3合以上です。これを避けることが肝臓がんを食い止める第一歩になります。

 肝臓がんとの関係で、もうひとつ見逃せないのがNASHです。飲酒をよくする人がなる脂肪肝と区別して、非アルコール性脂肪肝炎といいます。アルコールを飲まない人の中にも、アルコール性肝炎と同じような重症化のシナリオをたどるケースがあるのです。肥満の人に多いことから、肥満予防も大切でしょう。

 アルコールにせよ、脂肪肝にせよ、肝臓への持続的な慢性炎症がよくないということ。では、どうすればいいのかと思われるでしょうから、予防法もお伝えします。それがコーヒーです。

 国立がん研究センター多目的コホート研究で、コーヒーを毎日5杯以上飲む人はほとんど飲まない人に比べて、肝臓がんの発生率が約4分の1に低下していました。コーヒーの肝臓がん予防効果はハッキリしませんが、コーヒーが持つ抗炎症作用が肝炎の進行を防いでいるのかもしれません。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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